「現場を知らない人が…」 備蓄米販売を見送った米穀店主のため息

2025/06/09 07:00 

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 随意契約による政府備蓄米の販売が福島県内でも始まった。多くの買い物客が備蓄米を求めてスーパーを訪れる一方で、国が示す「備蓄米の引き渡し条件」がハードルとなって販売を見送った地域の米屋もある。県北地方のある米穀店の店主は「現場を知らない人が考えた条件に思える」とやり場のない気持ちを吐露した。

 いわき市小名浜のスーパー「マルトSC君ケ塚店」では6日、開店前から多くの買い物客が列を作った。店が用意したのは、2022年産の「古古米」(1袋5キロ、税込み2139円)600袋だ。

 開店1時間前の午前8時から整理券を配ったが、約30分間で全て配り終えた。山積みされた米の袋は店員が抱え、買い物客一人に1袋ずつ、整理券と引き換えに手渡していた。

 午前7時前から並んだという佐々木美樹さん(45)は、夫と子ども2人の4人家族で食事は3食とも白米という。「ご飯大好き家族で、あっという間になくなるので安く買えるのはかなり助かる。いつもは売り場の前を行ったり来たりして悩みながら買っている。早く気軽に買えるようになってほしい」と話していた。

 しかし、備蓄米の販売は一部のスーパーなどに限られる見通しだ。県北地方で米穀店を営む店主は備蓄米放出について「昨今の経済事情を考えると備蓄米を選ぶ消費者はいると思うので評価する部分ではある」と話す。しかし、「現実的に店にコメが入ってくるわけではない」と静かに語った。

 今回の備蓄米の随意契約は当初、年1万トン以上のコメを扱う小売業者からの申し込みに限られていた。22年産米20万トン、21年産米10万トンの計30万トンが放出の対象とされたが、申し込みが22年産米に殺到して全量に達する見込みとなったことから、国は5月26日の申請開始からわずか1日で受け付けを一時休止した。

 同30日に再開された残りの21年産米8万トン分の申し込みは、中小スーパーや地域の米穀店が対象になった。しかし、農林水産省が出した「条件」では、備蓄米の最低引き渡し量は「10トン」となり車で輸送される。

 30キロの袋に入れたとして300袋以上。店主は「置き場所もないし、これから暑くなるので低温設備がないと厳しい。米店には広い駐車場もなく、10トンの輸送車が来て『降ろしてくれ』と言われても」と備蓄米の申し込みに手を挙げなかった。共同購入も認められたが「地域のコメ屋にとっては現実的になかなか厳しい」と現状を語る。

 店主の経営する米穀店では、今回の備蓄米が入荷できなくても販売量は確保できる見通しだ。ただ「令和の米騒動」でコメの仕入れ値が高まる中、電気代やガソリン代、コメを詰める袋代といったさまざまな経費の値上がりも重なる。全てを価格に転嫁することはできず、混乱がいつ収まるのかも分からないまま苦境は続く。

 現実に店をたたむ米穀店も出ており、「対岸の火事ではない。我々も気を引き締めないと」と受け止める。

 「国は減反政策のストップや農家の高齢化問題への対応など、主食であるコメについては潤沢に行き渡るように調整してもらいたい。消費者には備蓄米が放出されたので、落ち着いて普段買う量を普段通りに買ってほしい」。そう呼びかける。

【柿沼秀行、岩間理紀】

毎日新聞

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