「原爆は過去の問題ではない」 外国人被爆者に迫るドキュメンタリー
米軍による原爆投下で、日本は2度の惨禍に見舞われた。一方、戦後の日本はきちんと被爆者に向き合ってきたのだろうか。悲劇を繰り返さないとの誓いは本当なのだろうか。そんな大事なテーマに取り組んでいるのが、大阪市生野区在住の在日コリアンで、記録映画監督の高賛侑(コウ・チャニュウ)さん(74)だ。広島、長崎、そして韓国を訪問し、被爆者や遺族、支援者らを幅広く取材。ドキュメンタリー映画「ノーベル平和賞とコリアン被爆者」(仮題)の製作を進めている。
原爆投下前の広島、長崎には、植民地だった朝鮮半島出身の多くの労働者がいた。正確な数は不明だが、広島と長崎で計7万人が被爆し、4万人が死亡したとの推計もある。
1957年に原爆医療法が制定され、被爆者への医療給付や健康診断が行われるようになったが、国外の被爆者は対象外とされた。
70年代以降、在韓被爆者の孫振斗(ソン・ジンドゥ)さん、郭貴勲(カク・キフン)さんらが裁判闘争を展開。遠いブラジル在住の被爆者にも支援運動は広がった。2008年になり、原爆医療法を拡充した形の被爆者援護法が、在外被爆者にも適用されることになった。
◇日韓支援者がつかんだ希望
「外国人被爆者で最も多かったのがコリアン被爆者。まずはその差別の実態を明らかにしたい」。高さんはそんな思いで撮影を始めた。ただ、取材を進めるうち新たな気づきも得た。「被爆者支援の動きを追っていくと、日韓の支援者らが共闘し、高い壁を打ち崩してきた経過が見えてきた。歴史的に大きな意味があり、そんな希望を感じさせる側面も伝えたい」
一方で、日本と国交のない北朝鮮で暮らす被爆者は現在も支援の対象外だ。現地取材は難しいが、外交関係の違いで今も排除されたままの被爆者にも触れる予定だ。
高さんは朝鮮大学校を卒業。演劇の脚本や雑誌編集にかかわり、ノンフィクション作家として多くの書籍を出版してきた。近年は映像作品に力を入れ、19年に朝鮮学校への差別をテーマにした「アイたちの学校」を製作。22年には、入管施設でのひどい処遇など戦後から続く外国人管理政策の課題を追った「ワタシタチハニンゲンダ!」を作った。どちらも国内外の映画祭などで高く評価され、複数の映画賞を受賞した。
2作の成功を受け、次に何を撮るのか。戦後80年の節目をふまえ、題材に選んだのが、コリアン被爆者だった。戦時中は日本人として戦闘や労働に駆り出され、戦後は外国人として救済の枠外に放置された大きな矛盾を問うためだ。
昨年9月から資料調査を始めると、10月に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞という大きなニュースが飛び込んだ。被爆者の存在が世界的に注目される中で、記録映像として残すことの重みをかみしめた。
12月に広島で、今年1月に長崎で撮影をし、4月には韓国にわたって被爆者遺族らにカメラを向けた。
原爆について深く調べるうち、日本を原爆の被害者という側面だけで描けないことも痛感した。「日本の陸軍、海軍もそれぞれ原爆研究を進めていた。そんな隠された話も取り上げ、原爆を巡る真実を明らかにしたい」
◇「反核平和」に寄与する作品に
国際社会では、2017年に核兵器禁止条約が採択された。しかし、日本は条約加盟どころか、会議へのオブザーバー参加にすら否定的だ。「被団協がノーベル平和賞を受けたことは素晴らしいこと。一方で、日本は本当に反核平和を進める気があるのでしょうか」
近年、中国と対立を深め、米国と関係を強めていく日本に、高さんは危惧を覚える。「唯一の被爆国を掲げながら、このままだと核兵器を作る国になるかもしれない。たとえ製造しなくても、米国の核政策をただ支持するだけの国になるのではないか」
近年、ロシアがウクライナ侵攻を続け、核兵器使用の可能性もちらつかせる。核保有国とされるイスラエルは、パレスチナ自治区ガザ地区を攻撃し続け、イランの核関連施設を攻撃する暴挙に出た。核の危険性を感じさせる紛争が相次ぐ中、高さんは語る。「原爆の問題は決して過去の問題ではなくなった。現在、そして未来の問題と言える」
今回の作品は、撮影段階から海外での上映を見据え、「国際的な反核平和運動に寄与できるものにしたい」と願う。
被爆80年の8月6日には再び、韓国南部の陜川(ハプチョン)を訪れ、被爆者遺族を取材する予定だ。早ければ年内に撮影を終了し、来年の上映を目指す。
製作費の支援や問い合わせは高さんのメール(kochanyu@hotmail.com)へ。前作「ワタシタチハニンゲンダ!」の公式ホームページにも関連情報を掲載している。【鵜塚健】
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