<キャンパる>AI事業で「一等地」目指す トヨタグループと協業の学生起業家
現役大学生が起業したベンチャー企業が、トヨタグループのマーケティング会社と協業し、多様なモビリティー(移動手段)と組み合わせて利用できる人工知能(AI)を利用した音声ガイドサービスを開発して注目を集めている。この出合いが生まれたいきさつと、協業を実現する原動力となった学生起業家を取材した。【上智大・脇坂葉多(キャンパる編集部)】
◇新鮮な“お散歩”体験
5月8~12日、大阪市の御堂筋で行われた大阪・関西万博の関連イベントで、トヨタ自動車が開発した歩行領域BEV(電気自動車)、「C+walk(シーウオーク)」を利用した実証実験が行われた。C+walkは公園や商業施設などで、歩行者と同じ速度で移動することを目的に設計されたモビリティーだ。同車を用いて、トヨタグループのマーケティング会社であるトヨタ・コニック・プロ(東京都千代田区)が展開しているのが、周遊観光サービス「OSAMPO」である。
記者も同イベントで、OSAMPOを実際に体験した。C+walkに乗りながら、自分のスマホからアプリにアクセスすれば、後は自動で位置情報と連動して通り沿いの観光スポットを通過するたびに音声ガイドで紹介してくれる。さらに質問にも答えてくれて、新鮮な体験だった。
◇評価される理由
トヨタ・コニック・プロのパートナーとして、OSAMPOでも利用されているAI音声ガイドのシステム開発を担っているのが、慶応大学総合政策学部2年の宮崎悠生さん(21)が代表取締役を務めるベンチャー企業、アトラス(東京都渋谷区)だ。
同社は2023年12月に宮崎さんによって設立された。「クローラー」と呼ばれる、ウェブサイト上を巡回し自動でデータを収集する技術を得意とし、OSAMPOの他には、製造業向けに製造図面などをAIで言語化するサービスなどを展開している。社員は総勢15人で、中心メンバーは全員が20代という非常に若い会社だ。
なぜ、そのような企業がトヨタグループとパートナーになれたのか。宮崎さんは、その経緯を「ラッキーだった」と振り返る。
宮崎さんがトヨタ・コニック・プロのOSAMPO担当者と出会ったのは、昨年6月にあった企業交流イベント。担当者と会場でビールを飲み交わしながら事業について議論を重ねたことが、受注へつながったという。体験会が直近に迫っていたが、3週間という短期間で製品を完成させた。宮崎さんは、「とりあえずこいつらに頼めば何とかしてくれると思ってもらえた」と成果を強調する。
時には一緒に酒を飲んだりサウナに入ったりもしながら、個人間のコミュニケーションを重視し、相手に「心がワクワクするかどうかで決めてもらう」というアトラスの営業スタイル。それは、論理的で効率重視な事業手法を好む社が多いといわれるAI系ベンチャー企業の中では珍しいタイプだ。AI業界は技術力の差が大きくなく競合が激しいが、宮崎さんは「営業スタイルのおかげで、他と競合している認識があまりない」とあっけらかんと笑う。
そのアトラスは、パートナーのトヨタ・コニック・プロにはどう評価されているのか。同社でOSAMPOの顧客体験デザイン担当を務める下井雄斗さん(28)は「発注元と下請けという関係ではなくパートナーとして、一緒により良いものを作るために議論できている」とその関係の深さを語る。アトラスの仕事ぶりについて「とにかくチャレンジ精神が旺盛。多少のトラブルがあっても前へ前へと進む」と驚きを隠さない。「問題点を指摘すれば、すごいスピードで対応してくれる。このスピード感は、決裁から承認までのフローが非常に複雑な大企業には難しい。彼らに引っ張ってもらいながら自分たちがチャレンジできている部分もある」と感謝の意を示した。
◇劣等感をばねに
OSAMPOのイベントは今回の大阪で4回目となる。しかし技術面で全く問題がないというわけではない。記者が体験した際にも、現在地と異なる位置の地図が表示されたり、AIが問いかけに応じなかったりしたことなどがあった。
OSAMPOはまだ実証実験の段階で、商品化に向けて試行錯誤を繰り返している状態にある。トヨタ・コニック・プロでOSAMPOのプロダクト開発を担う山本さくらさん(32)は、「今は100%の技術よりも、お客さんがどのような体験をしたかを集めることが大切」と語り、「これからもアトラスと共に成長したい」とパートナーとしての姿勢を強調した。
トヨタ・コニック・プロとの協業を順調に発展させているアトラスだが、同社は宮崎さんにとっては2度目の起業だった。初めての起業は高校1年生の時。起業家だった両親や、企業主催の高校生向け起業家育成プログラムに参加していた兄の影響を受け、数人の仲間と夫婦間のコミュニケーションを促進するサービスを事業化した。
「需要を捉えきれなかった」と事業自体は失敗に終わったものの、プログラミングの楽しさに目覚め、大学1年の冬には東証上場のAIベンチャー企業に、インターンシップ(就業体験)で飛び込んだ。同期は大学院生など年上ばかりで苦労したというが、そこでの学びや経験は1年後、アトラスを立ち上げる際に大きな糧となった。
大学では経営学を専攻。最初の事業運営に行き詰まりを感じていた際には、所属するゼミの琴坂将広教授に言われた「キミはこのままだとただのスーパー高校生で終わるよ」という一言が、宮崎さんをインターンや再びの起業へと駆り立てるのに大きな着火剤となった。24年度以降、事業に専念するため休学を選択しているが、ゼミだけは今も定期的に出席を続けているという。
起業への道をひたすらに進んだ当時を振り返って宮崎さんは、「とにかく取りえになる何かが欲しかったんだと思う」と回顧する。スポーツや勉強は苦手で、中高生の時は周囲からいじられることも多かった。起業を通じて見違えるように成長する兄や、それを称賛する両親に対してもコンプレックスを抱いていたという。「自分は劣等感を覚えやすい一方で、社会に対して大きなインパクトを与えたいという気持ちも強かった。自分にとってそれができるのは起業しかなかった」
◇目指すは“ドラえもん”
そのため会社へかける熱意は大きい。アトラスの立ち上げ当初は「一日中プログラミングをしていた」というが、優秀なプログラマーが加わった現在は、組織の長として新たな顧客や投資家との関係構築や、才能ある人材のリクルートに注力する。「メンバーは皆、僕より賢い。彼らに自由に考えてもらって、最後の最後に責任だけ持つのが自分の仕事」だと今は考えている。
かつて抱いていたコンプレックスはもう気にしなくなったという。売り上げすら出せず頓挫することも多い学生ベンチャーの世界で、事業は一定の成功を収めた。「明確に自分で食べていける以上のものはあるし、親にもそれを還元できている。何を言われてももう劣等感は感じない」。そう語る表情は、同世代とは思えないほど自信にあふれていた。
今後のアトラスについては、「AIで生まれた多くのビジネスチャンスの中に、自分たちの一等地を作りたい」と大きな夢を描く。そのためにシステムの受託生産にとどまらず、今はAIエージェントと呼ばれる、利用者に合わせて商品を提案するAIの開発に注力しているという。
現在その分野で先行する海外企業が製造するAIエージェントは、時として販売側を利するあまり利用者に不利益な提案をしていることもあると指摘する。その上で「ロボット映画で言えば、彼らは味方の犠牲もいとわないターミネーター。彼らに追随するのではなくて、僕らはドラえもん流の、ユーザーに寄り添ったものづくりをしたい。金もうけのために作られていないAIを、この資本主義の世の中で少しでも多くの人に届けたい」と目標を語った。
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