輪島港から50キロ 唯一の公共交通ようやく復活の島、住民の思い
石川県輪島市の沖合約50キロにある舳倉(へぐら)島と同市の輪島港を結ぶ定期航路が7月末、約1年7カ月ぶりに再開した。2024年元日の能登半島地震では津波が島を襲い、住宅や漁船に大きな被害が出た。再開初日の便に記者も乗船し、島を訪れた。
7月30日午前10時半過ぎ。島民や自治体職員、報道関係者など数十人が乗り込んだ定期船「希海(のぞみ)」は約1時間半の航海を終え、汽笛を鳴らしながら舳倉島の港へ到着した。
海女漁を代表とした漁業が主力産業の舳倉島は外周約5キロ。最も高い場所で海抜約12メートルと大きな起伏がない。20年に実施された国勢調査によると、島の住民は32世帯66人。夏場は民宿を営業する人や海女たちが滞在して人口が増える。
地震発生時、住民の多くは輪島市街地に滞在しており、島にいたのは3人のみ。孤立状態で約2週間過ごし、自衛隊のヘリで救出された。その後、自らの漁船を用いて島へ通う住民もいたが、地震による隆起などによって港湾設備が大きな被害を受け、定期航路は長期間運休を余儀なくされていた。
この日の乗客の中に、漁具を携えた漁師の吉浦甚雄(じんおう)さん(81)の姿があった。島に着くと、早速、港にある自身の漁船「雄漁丸」へ行き、ドリルで船底に穴を開け、たまった水を出していた。地震時、吉浦さんは島にはいなかったが、津波は自宅近くまで押し寄せ、海に近い親戚の家は壊されたという。
照りつける日差しに「暑いなあ」とこぼす吉浦さんは地震前に初期の膵臓(すいぞう)がんを患い、今も通院が続く。島へ行くことを家族から心配されながらも「体が元気なうちは島に来たい」という。
お盆と正月以外は島で暮らした吉浦さん。作業の合間、島の思い出を語ってくれた。かつて島には空き地がないくらい家があり、祭りになると、多くのキリコが立ち上がり、にぎわっていたという。「たくさんアワビが取れてね。落ちてたアワビをかじって学校へ行ったよ」
吉浦さんと別れ、家が建ち並ぶ通りまで歩いた。荒れ果てた家もあったが、津波の影響なのかどうか、答えてくれる住民の姿はなかった。
歩き続け、大量の汗を流す姿を見かねてか「ご飯、食べていきなさい」と、民宿つかさのおかみ、大角しのぶさん(70)が記者に声をかけ、食事を振る舞ってくれた。大角さんは宿の換気をするため、島へ久しぶりに来ていた。
釣りや野鳥観察の愛好家にも親しまれてきた舳倉島。島の北西部で約60年前から営業してきた宿の天井や壁には愛好家らが贈った魚拓や鳥の写真が所狭しと並ぶ。
地震後、常連客からは心配の電話が多く寄せられたという。「今、お客さんたちはどうしているか……。営業を再開させたい」と大角さんは語る。
建物に被害はなく、電気と水道も復旧したが、給湯用のボイラーの修理や冷蔵庫の買い直しなど、再開へ向けた道のりは長い。業者や機器を運ぶことができるのは、唯一の公共交通である定期航路だけだ。
多くの関係者にとって待望だった定期航路の再開。8月中は毎週水曜日に往復1便が運行される予定だ。復路の船に乗り込む前、大角さんはつぶやいた。「この船に懸かっているんです」【岩本一希】
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