福岡県が内部告発者探し 用地買収巡り 識者「公益通報の趣旨逸脱」

2025/11/03 05:00 

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 道路整備事業に伴い、福岡県が地権者の意向に沿うように土地代を増額し異例の高値で用地買収した問題で、県が8月に「不適切だった」と認めた後、買収情報流出の経緯を調べる内部調査に着手していたことが関係者への取材で判明した。この問題は毎日新聞の報道で発覚し、公金の過大支出の疑いが明らかとなったが、県は公益通報者保護法が定める「公益通報」には当たらないとし、告発に関与した職員を探索するような質問もしていた。識者は「公益性のある情報提供で探索するのは法の趣旨を逸脱する」と批判している。

 ◇告発は公益通報か

 公益通報者保護法は、刑事罰や行政罰が規定された法令に違反した疑いのある事案の告発を「公益通報」として保護対象としている。報道機関への通報も認められるが「証拠隠滅の恐れがあると信ずるに足りる相当の理由がある」など六つの要件のいずれかを満たす必要がある。

 ただ、告発が公益通報に当たるかが議論になり、裁判所の判断に委ねられるケースも少なくない。公益通報者を探索する行為は解雇や降格といった不利益な扱いにつながる恐れがあるため、同法は指針で事業者側に防止を求め、2025年6月成立の改正法では罰則はないものの、探索禁止を盛り込んだ。

 県が県道整備の事業用地として6月に買収したのは、同県赤村の土地(2505平方メートル)。毎日新聞は独自入手した県の内部資料などを基に、県が当初算定した用地補償額は430万円だったのに、地権者の男性(76)が難色を示すと増額し、約5倍の2165万円で買収したと8月13日付の朝刊で報じた。

 県は同日、記者会見を開き「不適切だった」と認め、補償額を算定し直すと表明。服部誠太郎知事も8月22日の定例記者会見で「重大な問題」と述べ、過去5年分の取引を調査し再発防止に努めるとした。

 ◇「不審な人を見たか」などと質問

 一方、県は問題発覚の過程で内部情報の漏えいがあった疑いがあるとし、9月から職員への聞き取り調査を始めたことが関係者への取材で新たに判明した。複数の関係者によると、問題の用地買収を担当した県の出先機関「田川県土整備事務所」の職員ら数十人が対象となり、同事務所を管轄する本庁の県土整備部と人事課の担当者が聞き取りを進めている。

 人事課の担当者らは対象者に「犯人捜しではない」と説明。関連する内部資料の内容や保管場所を把握しているかを尋ねたり、情報漏えいに関し「不審な人を見なかったか」などと質問したりしていた。調査内容の口止めもしていた。

 ◇県は「公益通報に当たらず問題ない」

 県人事課の内部統制室長は毎日新聞の取材に、調査の過程で告発者が特定される可能性はあるとした上で「今回は保護要件を満たしていないため、公益通報に当たらず、調査は問題ない」と説明。「県民のためになった事案だからといって情報流出は放置できない。経緯を調べるための聞き取りだ」として適正な調査を主張している。【志村一也、川畑岳志、金将来】

 ◇消費者庁の「公益通報者保護制度検討会」で委員を務めた志水芙美代弁護士(東京弁護士会)の話

 事業者側が一方的に保護対象ではないとして調査することが許されてしまえば、探索防止措置の規定が機能しなくなる。経緯を調べていけば告発者の特定につながるため、犯人捜しではないという福岡県の言い分は疑問だ。今回の用地買収を県は不適切だと認めて是正に動いており、公益性が認められる。県民の利益のために声を上げた人を特定しようとする行為は、制度の趣旨に反し不適切だ。

毎日新聞

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