西中国山地でもクマ出没 昨年より減少も専門家「対策は必要」

2025/11/06 12:39 

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 東北地方を中心にクマによる人身被害が相次ぐ中、広島と島根、山口の3県にまたがる西中国山地でも人里に出没するケースが確認されている。広島市の民家の裏では10月末、成獣のツキノワグマが捕獲された。3県によると、昨年度に比べて目撃情報が少ない状態が続いているが、専門家はクマに遭遇しないように注意を呼びかけている。

 広島市中心部から北西に約15キロ離れた山あいにある同市安佐南区沼田町阿戸地区。住民の山田則行さん(75)は10月末、自宅裏にある柿の木の周辺に食い散らかされた柿の実の破片が散らばり、巨大なふんが残っているのを見つけた。木にはひっかいた爪痕もある。「クマがいるに違いない」と確信した。

 相談を受けた市は、すぐに周辺の3カ所に箱わなを設置。その翌朝、山田さんがわなを確認しに行くと、そのうちの1カ所に体長約1・5メートル、体重約64キロのツキノワグマの雄が入っていた。近付くと鋭い爪と牙で威嚇し、うなり声を上げてきたという。「あの爪で一回でもひっかかれたら終わりだと思った」と振り返る。

 ほかにも西中国山地の各地でクマの捕獲が報告されているが、現時点では昨年度に比べて出没件数は減っている。

 広島県によると、今年度の県内での出没件数は9月末までで293件。昨年度同時期の459件の6割ほどだ。山口県では今年度、10月末までに284件の出没が確認されたが、昨年度同時期には673件だったので、半分以下になっている。

 昨年度は9月末までに1155件確認された島根県でも、今年度は同時期で572件にとどまる。県西部の山あいにある益田市匹見地域では昨年、民家に侵入したクマが冷蔵庫を物色するなどの被害が相次いだ。しかし、今年度は出没件数が大幅に減っているといい、市の担当者は「新たな対策はとっておらず、なぜ少ないのか正確な理由は分からない」と話す。

 専門家はどう見るのか。クマの生態や対策に詳しい東京農工大の小池伸介教授(生態学)は「クマのえさとなるドングリやブナなどが豊作なのが要因ではないか」と分析する。

 連日のようにクマによる死傷者が出ている東北地方では、今年はドングリやブナが不作で、えさを求めて里に下りてくるケースが増えている。西中国山地は豊作傾向で、東北のような状態になっていないと考えられるという。

 小池教授は「西中国山地でこれから急激に出没件数が増えるとは考えにくいが、栗や柿の実を放置しないなど、クマが人里に近付かないようにする対策は必要だ」と指摘している。【井村陸】

毎日新聞

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