黄綬褒章の「世界一の菓子職人」 やわらかいチョコレートの秘密は?

2025/11/08 14:15 

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 ◇世界の菓子職人を驚かせ シェフの林雅彦さん

 黄綬褒章を受章した、奈良市に2店舗ある「ガトー・ド・ボワ」のオーナーシェフ。洋菓子コンクールの最高峰「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で1991年、3人チームで優勝し、“世界一の菓子職人”として注目された。日本人初の快挙だった。その時に作ったのが今や看板商品のアンブロワジー。表面を覆う艶やかでソフトなチョコレートが世界の菓子職人を驚かせた。

 チョコレートは冷めて固まると艶が消える。目指したのは艶やかでソフトな食感。上面と側面に同じ厚さで塗るので、ソフト過ぎると垂れる。絶妙なバランスが求められた。解はゼラチンとペクチンの両方を入れること。「これは苦労しました」と懐かしむ。

 この話は続きがある。コンクール出場者はレシピの提出が求められる。企業秘密を守るためにうそを書く人も多いそうだが、林さんのチームが正直に書くと翌年にはフランスのメーカーからほぼ同じチョコレートソースがプロ向けに発売された。

 洋菓子業界に貢献したもう一点は、トレハロースという甘味料を広めたこと。量産に成功した岡山市のメーカーの依頼を受け洋菓子での活用を探った。甘さは砂糖の40%ほど。これが素材の風味を生かすのにいい。熱を加えても茶色になりにくい。「ジャムを作ると砂糖よりずっときれいになる」と林シェフ。

 家で料理やケーキの教室を開いていた母親が西大寺に開店した。父親は大手建設会社に勤めていた。両親の刺激を受け、ものを作る職業を志した。食のシェフという選択肢もあったが、「菓子の方が工程が多く、多様な表現ができる」とこの道に。

 これまで数々の栄誉に輝いたが、「褒章はやはり感慨深い。菓子作りしかやって来なかった。続けられたのはお客さまのおかげ」。謝辞は顧客に向けた。【大川泰弘】

 ◇林雅彦(はやし・まさひこ)さん

 奈良市出身。東京製菓学校卒業後、フランスやスイスの製菓学校で学び、1984年から東京成城マルメゾンで修業を重ねる。89年、ガトー・ド・ボワのシェフに就任。2019年、「現代の名工」に。「目が届く所で」がモットー。他地域への出店要請を断り、奈良市内の2店舗で菓子作りを続けてきた。

毎日新聞

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