「クマ捕獲は短期決戦」ガバメントハンターの役割は? 養成に課題も

2025/12/11 11:30 

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 クマの出没による被害の拡大を受け、政府は狩猟免許を持つ公務員「ガバメントハンター」の確保に本腰を入れている。

 11月にとりまとめた「クマ被害対策パッケージ」では、ガバメントハンターの育成や人件費・資機材の支援を明記。2025年度補正予算案にも関連経費が盛り込まれた。

 民間の猟友会が中心的に担ってきたクマ対策について、「官」の取り組みを強化しようという動きだが、実際の運用ではどんな課題があるのか。

 すでに一部自治体で活躍しているガバメントハンターに話を聞いた。

 ◇政府の交付金は28倍に

 「ガバメントハンターの確保を各地で進め、ハンターの皆様の負担を軽減できるよう引き続き自治体と連携して取り組んでまいりたい」

 5日の衆院環境委員会。石原宏高環境相は民間ハンターの協力に謝意を述べた上で、「高齢化や担い手の減少に伴い負担が大きくなっている」とも指摘。公務員による対策の必要性を訴えた。

 銃によるクマの駆除はこれまで、警察官職務執行法に基づいて警察官がハンターに発砲を命じる方法などがあったが、今年9月からは自治体の判断で市街地でも発砲できる「緊急銃猟」が加わった。

 複数ある駆除制度の的確な運用に加え、民間ハンターが対応できない場合の捕獲業務など、専門的な技能を持つ自治体職員への期待は高まっている。

 環境省は25年度補正予算案にも人材確保策を盛り込んだ。クマ対策の交付金事業を当初予算の1億円から28億円に拡充した。

 環境省の担当者は交付金の狙いについて「短期的には各自治体で専門人材を雇い、将来的に正規職員になってもらうことを描いている」と説明する。

 ◇二刀流で打つ先手

 では、ガバメントハンターの存在はクマ対策でどんな効果を発揮するのだろうか。

 自治体の中で先駆けてガバメントハンターを導入したとされるのが、長野県小諸市だ。

 市では11年に職員による野生鳥獣対策実施隊を設置。現在は鳥獣対策を担う職員2人が狩猟免許を所持している。

 そのうちの一人、桜井優祐さん(40)は以前、隣町役場で働いていたときに、わなと銃猟による狩猟免許を取得。23年から小諸市職員として鳥獣対策を行う。

 「クマの捕獲は1週間が勝負の短期決戦です」

 クマが出没したと思われる現場から通報を受けると、桜井さん自らが確認に行き、生ゴミ対策を周知したり、カメラを設置したりする。

 情報は地元ハンターとも共有し、わなの設置を視野に段取りを進める。

 わなを仕掛けるにも、状況はさまざまだ。

 クマの個体に合わせた大型のわなを用意したり、わなで捕獲後に銃でとどめを刺すためにクマを別の場所へ移す準備を進めたりしなければならない。

 市職員でもあるガバメントハンターだからこそ、特殊車両の手配など一連の作業を迅速化し、早い段階で捕獲作業に入れるという。

 捕獲までの準備期間を1~2日短縮することが、クマを確実に捕らえて人的被害を抑えることにつながる。

 桜井さんは「行政としての協力、ハンター目線でのプランニングが両方できて時短につながりました」と振り返った。

 ◇銃所持でハードルも

 自治体で鳥獣対策に取り組むのは、桜井さんのようにもともとハンターとして活動してきた人だけではない。

 北海道森町の地域おこし協力隊、荒井一樹さん(39)は、23年から町の臨時職員として鳥獣対策を担い、昨年7月に狩猟免許を取得した。

 桜井さん同様、猟友会との「パイプ役」として意見の調整を担っている。

 「出没したクマが制度上、有害駆除の対象になるか、判断が難しいケースもあります。一生懸命やってくれているハンターが罰せられることは避けたいので、慎重に取り組んでいます」

 地域おこし協力隊の活動の一環で、箱わなを設置する小型クレーンの技能も取得。今後はドローン免許を目指す。安易に人が近づけないところでクマが出た場合、ドローン操作ができればクマの居場所特定に役立つという。

 しかし銃所持を巡っては難航した点もあった。

 24年6月に成立した改正銃刀法により、クマの駆除で使用するハーフライフル銃の所持規制が強化されたためだ。

 威力が強いライフル銃と同等に、10年以上続けて猟銃の所持を許可された人などに限られることになった。

 ただ、クマなどの捕獲で必要と認められた場合は10年未満の所持期間でも使用できる例外規定も設けられた。

 荒井さんはこの例外規定を使って所持申請をし、実際に認められたのは今月だった。

 ◇技能を生かす組織作りを

 今後は、自治体が職員の鳥獣対策の技能を生かせる体制を作れるかも課題になりそうだ。

 荒井さんは、働きながら専門的な技能を身につけたが、地域おこし協力隊としての任期は来年春まで。

 「せっかく仕事を覚え、地元の人との関係も作ったので、引き続き変わらない体制で活動していきたい」と話す。

 自治体の一般職員が鳥獣対策の技能を身につけても、専門職としての雇用でなければ、異動などで別の業務につかざるを得ない。

 小諸市の桜井さんも「一般職は定期的に異動があり、次につながらない。職員の中から人材を育成するなら、できるだけ技能を生かせる体制を作るべきだ」と指摘する。

 クマ対策が緊急課題となっているが、人材の育成や確保には一定の時間を要する。今後の鳥獣被害に備える意味でも、技能を持つ職員をどうつなぎ留めるか、行政には長期的な取り組みが求められそうだ。【川口峻】

毎日新聞

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