大分市、18年前に火災リスク把握も対策手つかず 佐賀関の大火事
11月に大分市佐賀関で起きた大規模火災は木造住宅密集地などが延焼拡大の要因とされるが、市は18年前に防災計画を策定した時点で同様の危険性を把握していたことが、毎日新聞の情報公開請求で判明した。リスクを認めながら惨事を防げなかった背景には、人口減少が進む中で財源や人手が確保できず、対策が後手に回った状況がある。火災は18日で発生から1カ月。専門家は対策が手つかずの住宅密集地は全国に点在していると警鐘を鳴らす。
火災は11月18日夕に発生。佐賀関半島の港町である田中地区の延焼が激しく、住宅など180棟以上が焼け、約130世帯が被災した。焼失面積は4万8900平方メートルに及ぶ見通し。住民男性1人が亡くなり、大分県警はこの男性宅を火元と特定した。
延焼拡大の要因は複数指摘されている。木造家屋が軒を連ね、焼け止まりになるようなスペースもなく、被災住宅の約4割は空き家で防火対策が不十分だった。細い路地が入り組む地区は消防車両の進入を妨げた。消防団は数本のホースをつなげて延ばし、火の勢いが強くて近づけない消火栓の代わりに海水をポンプで吸い上げて散水した。強風で飛び火も相次いだという。
こうした延焼リスクを行政側はどこまで把握し、対策していたのか。
毎日新聞の情報公開請求で開示された市の防災計画(2007年策定)からは、田中地区を含むエリアについて火災をシミュレーションしていた跡が確認された。今回の火元から北東約150メートルの付近で出火したとの想定で検討し、「地区中央を幅員約2・3メートルの道路が南北に走り、東西については幅員約90センチ前後の狭い道路で囲まれており、ホースカーの進入は不可」と言及。建物は木造など「準防火造」が多く、延焼拡大を招くことや、消火活動に海水を用いるなど、今回の火災で起きた現象と重なる記述が複数あった。
更に市は、新潟県糸魚川市で起きた大規模火災の翌年となる17年、大分市内の27カ所を延焼警戒区域に指定し防災計画を再策定。この際も田中地区を含むエリアについて「多数の建物が木造住宅であり、ホースカーも通れない狭隘(きょうあい)路が多数ある」「年間を通じて強風であることが多い地域」と留意事項を明記していた。
だが、これらの指摘が効果的な防火対策に結びつくことはなかった。
大分県や大分市によると、田中地区が21年3月に都市計画区域外となった影響が大きいという。区域内であれば道路拡張や公園の整備が優先的に実施され、防火対策も進む。一方、人口減に苦しむ田中地区は新たな宅地開発の見込みもないとの理由で区域外となり、対策から取り残された。
市の担当者は「危険な住宅密集地の整備は必要だが、財源や人手が確保できず着手できなかった。ジレンマがある」と明かした。
各地の大規模火災現場を調査してきた東京大の広井悠教授(都市防災)は「人口減少が進んだ住宅密集地の環境整備が後回しになっている。佐賀関のような地域は全国にある。建物の建て替えの促進や避難計画の策定など、自治体は現状でできることに取り組む必要がある」と話す。【山口泰輝】
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