世界最大級の品評会で金賞も 北海道のワイン、日本初の試みとは
外資系製薬会社のMR(医薬情報担当者)からワイナリーの立ち上げに参画し、醸造責任者となった麿直之さん(41)=北海道長沼町=はワイン造りについてこう語る。
「奥が深く、知れば知るほど、もっと勉強が必要になる」
本来、年に1回しか経験できないが、季節が逆の南半球のワイナリーへ修業に行き、年2回の経験を積んで知見を深めた。これらの経験を生かし、日本初と銘打った施設をオープンする。
ほぼ経験ゼロで挑戦した初めての仕込みは、ドイツ在住の日本人醸造家らの指導で乗り切った。
節目ごとにアドバイスをもらい、慎重に作業した結果、初めて作ったワインが日本国内のワインコンクールで銀賞を受賞。翌年に仕込んだワインも香港のコンクールで金賞に輝いた。
「コンクールは、嗜好(しこう)品であるワインを客観的に評価してくれる。方向性は間違っていない、と自信になった」
もっと良いワインを造ろうと、南半球のワイナリー修業を思いつく。
秋は日本で、日本の春にあたる時期には南半球でワイン造りを行い、年2回の経験を積む作戦だった。
ニュージーランドとオーストラリア、南アフリカの3カ国で計4回修行。さらに、2年間にわたって米カリフォルニア州立大デービス校のワイン醸造に関するオンライン講座を受講・修了し、現場の経験を知識として体系化した。
努力の成果はすぐに表れる。イギリスで行われる世界最大級の品評会「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)2019」で銀賞を受賞すると、翌年には金賞を獲得した。
「自分自身で満足してしまうと、成長は止まり、ワイン造りも止まってしまう。評価は第三者の評価であり、何が足りていないかは自分自身が一番分かっていた」
自社のワイナリーはレストランやホテルもオープンし、取締役としてワイン製造責任者の役割だけではなく、全体のマネジメントも任されるようになっていた。
「打ち合わせの日々が続き、自分で管理・把握できないワインも増えてしまった」
もっともっとワイン造りに力を注ぎたい。
この思いが募り、22年に独立を決意。株式会社「ジャパン・ワイングロワーズ」を設立し、ワイナリーの設立やワイン醸造などのサポートのほか、新規の自社ブランド「マロワインズ」の醸造・販売をスタートした。
自社ブランドは初年度、東川町のワイナリーを間借りして製造した。初めて間借りをしてみると、温度管理など自分の思うようにワインを造れないジレンマに気付いた。
おりしもワインブームでワイナリーの数は増えていたものの、経営は必ずしもうまくいっていないという報道もあった。その一因はワイナリー建設などに多額の費用がかかることだった。
逆に言えば、ワイナリーを建てなくても、ワイン造りをできる環境があれば、コストを抑えてワイン文化を広めることができる。
こう考えて、長沼町につくったのが「シェアワイナリー」の「ホッカイドウ・スペース・ワイナリー」だ。
シェアハウスのイメージで、作業スペースは共同だが、管理は各個室で行う。このため、間借りとは異なり、温度設定など自分の造りたいようにワインを造ることができる。
麿さんによると、シェアワイナリーの建設は日本で初めてだという。
「マロワインズ」は現在、契約農家からブドウを購入して製造。26年秋の仕込みには自身で育てたブドウを使い、醸造できる見通しとなっている。
シェアワイナリーに併設する1・8ヘクタールのぶどう畑にはピノノワールやシャルドネ、ケルナーなど計6種類のブドウを栽培しており、「品種特性を生かしたきれいな、おいしいワインを造りたい」と目標を掲げる。
夢はそれだけにとどまらない。
「日本のワイナリーは、子供が来づらい場所になっている。海外は子供もウエルカムで、遊具で遊ぶ光景が当たり前。このセラードア(販売所兼試飲室)は、0歳から100歳まで楽しめる場所にしたい」
25年からはキッズスペースも設置。大人も子供も楽しめる体制を整え、ワイン文化のさらなる普及・拡大を目指している。【高山純二】
◇麿直之(まろ・なおゆき)さん 1984年生まれ、仙台市出身。法政大卒。外資系製薬会社のMRなどを経て、仁木町のニキヒルズワイナリーの設立に参画。その後、独立し、独自ブランド・マロワインズを醸造・販売する株式会社「ジャパン・ワイングロワーズ」、シェアワイナリーを運営する株式会社「ホッカイドウ・スペース・ワイナリー」、ブドウ畑を運営する株式会社「ホッカイドウ・スペース・ビンヤード」の3社を経営。
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