さいたま市大宮区の大宮駅西口近くに今年４月、映画館とカフェ、シェアハウスの複合施設「ＯｔｔＯ（オット）」がオープンした。さいたま市では唯一のミニシアターで、地元住民や映画ファンらの憩いの場となっている。代表の今井健太さん（５６）に映画館と賃貸住宅を組み合わせた狙いや開設の経緯などについて聞いた。【聞き手・加藤潔】

　――建物はどのような構造ですか。

　◆５階建てで、１階がカフェ、２階に映画館、３～５階がシェアハウスで２５室あります。１階はガラス張りで開放的な作りです。映画館は５３席あり、スクリーンは２２０インチ。上映作品は特定のジャンルに偏ることなく、アニメからヒューマンドラマ、ドキュメンタリーなど子どもから大人まで楽しめる作品をそろえています。

　――開設の経緯を教えてください。

　◆ここは義父母の土地で、コーポ（共同住宅）が建っていました。土地区画理事業の影響で建て替えることになり、義父から相談されたのです。駅近くには賃貸住宅がたくさんあり、同じような建物を建てても仕方ない。調べてみたら、再開発で地域が分断されている状況も分かってきた。地元の人らに話を聞き、いろいろ考える中で、「映画館はどうか」と思ったんです。

　――なぜ映画館がピンときたのですか？

　◆映画は娯楽から学びまで裾野が広く、作品が入れ替わり、訪れる人も入れ替わる。時代を経て建物が古くなる中で、むしろ価値が高まっていく物件になるのではと考えました。２０１９年ごろのことです。

　――どのようにして構想を実現したのですか。

　◆映画館のことを何も知らなかったので、業態を調べました。チケットの売り上げのほぼ半分を配給元への支払いに充て、残りで館を運営する。デジタル化で設備や機器の価格も高くなり、チケットの売り上げだけで経営するのは難しいと分かりました。では、どうすれば経営が成り立つか。そこで思いついたのが、映画館と賃貸住宅、飲食店を複合した施設にするとのアイデアです。

　――具体的には？

　◆賃貸の住居を併設して家賃収入を得ることで、銀行から融資を受けてもその収益だけで返済できるスキームを作りました。人の暮らしと経済活動が文化を支える仕組みです。でも最初に相談した大手金融機関では相手にしてもらえませんでした。地元の地銀に話を持って行ったら「面白いですね」と言ってくれて融資を受けられるとになりました。

　――ようやく動き出したのですね。

　◆多くの人に助けてもらいました。深谷市のミニシアター「深谷シネマ」創設者の竹石研二さんに相談しに行ったらとても喜んでくれて、「全国コミュニティシネマ会議」に誘ってくれたんです。その年（１９年）は川口市のＳＫＩＰシティが会場でした。会議に参加して情報収集し、人のつながりがだんだんできました。

　映画館の座席は山形県鶴岡市の「鶴岡まちなかキネマ」から譲り受けたものを使っています。山形産の木材を使った特注品でとても質感のある椅子です。

　――将来どのような施設にしていきたいですか。

　◆昔は大宮駅周辺に映画館がたくさんありましたが、すべてなくなり、シネコン（シネマコンプレックス、複合映画館）だけになりました。ＯｔｔＯはさいたま市で唯一のミニシアターです。音楽会や展示会、健康相談会など、さまざまな催しのアイデアもあります。いろいろな世代の人が集まれる場にしていきたいと思っています。

　◇今井健太（いまい・けんた）さん

　１９６９年東京都生まれ。幼児期に富士見市に転居し、小学２年から春日部市で育つ。設備工事会社を経営する傍ら、「ＯｔｔＯ」代表を務める。名称は息子が自身のことを「おっとう」と呼ぶことに由来する。ＯｔｔＯは大宮駅西口から徒歩５分。カフェの営業時間は午前９時～午後９時（水曜は正午～午後６時、不定休）。詳細はウェブサイト。