手書きがやばい? 日付と曜日だけの「白い文庫本」が18万部突破

2026/01/29 11:30 

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 日付と曜日だけが印刷された白い文庫本「マイブック」(新潮文庫)が、にわかに再ブレークしている。文庫本は発行部数が10万を超えれば「ヒット」といわれるが、2025年秋に発売された26年版のマイブックの発行部数はすでに18万5000部を突破。交流サイト(SNS)全盛の時代に、いったい誰がどんなふうに使っているのか?

 ◇手書きの「日記」をSNSで共有

 「日々思うことを書くのにちょうど良い」

 「手書きの良さを感じられる」

 「ゆるく続けられそう」

 SNSには、そうした書き込みとともに、それぞれが書き込んだマイブックの一ページが投稿されている。

 恋人のこと、仕事の愚痴、食べたもの、見たテレビの内容、大切にしたい言葉……。その日あった出来事や感じたことを、手書きの文字でつづったり、カラフルな絵で表現したり、写真やコンサートのチケットを貼ったりして楽しんでいる。使い方はさまざまだ。

 「『日記』というと、あまり人に見せたくないものだと思っていましたが、匿名だからなのか、SNSで互いに共有し合っている。それがいまの特徴です」

 新潮社の営業担当、石井光一郎さんはそう話す。

 ◇「自分の本」として99年に販売開始

 マイブックは1999年秋に初版の「2000年版」が発売された。

 デザイナーの大貫卓也さんが「自分の書いた本が本棚に納まるのは、得がたい経験なのでは」と考え、「自分の本」というコンセプトで企画したのが始まり。歴代最高でもある39万部を売り上げ、ロケットスタートを切った。

 以来、毎年発売され、中身は当初から変わっていない。

 各ページには日付と曜日だけが印刷されていて、あとは真っ白。

 著者が記されるスペースは空欄で、自分の名前を書き込むスタイルだ。

 裏表紙には「あなたがつくる、世界に一冊だけの本。どんなふうに使うかはあなたの自由です」とある。

 毎年購入する固定ファンもいて、ここ10年ほどの売り上げは6万5000部ほどで推移してきた。が、24年秋に発売した25年版が突如12万部の再ブレーク。26年版はそれを上回る勢いで、日本語版がそのまま中国や韓国、米国など6カ国・地域でも売られている。

 ◇Z世代に「#日記界隈」として拡散

 それにしても、なぜ今、人気が再燃したのか。

 マイブックの購入層は、もともとは40、50代の女性が中心だったが、ここ数年は「Z世代」が急増し、26年版は20代以下の女性が約3割を占めるという。

 背景には、若年層を中心に、マイブックに限らず手書きの日記をスマートフォンで撮り、「#日記界隈(かいわい)」のタグを付けてSNS上で共有する動きが広がっていることがある。

 「こうした動きと共鳴して、一気にマイブックが広がったように思います。自分の感情を表現する内容のものが多く、書き手の温度感が感じられる手書きに価値を見いだしているのではないでしょうか」

 石井さんはそう分析する。

 新たな「つながり」も生んでいるようだ。

 SNSに公開されているマイブックに記された言葉は、直接、友人には話せないような「心の内」を語ったものも多い。

 「SNSは議論や評価をしたり、されたりが多いが、共感し合ってつながる場にもなっているのかなと思います」と石井さん。

 ◇文庫本に手を伸ばすきっかけになれば

 にわかなマイブックの「爆売れ」は、出版社にとっても「目からうろこ」だったという。

 「Z世代のマイブック購入者は普段、新潮文庫を買っていただいている層ではない人がほとんど。インターネットで『マイブック どこで買える?』と検索している人も結構いるようです」

 書籍の売り上げのピークは90年代半ばで、その後、右肩下がりが続いている。書店も軒並み減って、本を書店で買うことも当たり前ではなくなった。

 「マイブックは新潮文庫の一冊ですが、Z世代にはSNSを通じて知られ、拡散されました。マイブックをきっかけに、新潮文庫を手に取ってくれる人が増えれば……」

 石井さんはそう願う。【田中理知】

毎日新聞

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