<キャンパる>「就活は黒髪で」 “暗黙の髪色ルール”に縛られる学生たち
2027年春卒業予定の大学生に続き、28年春卒業予定の大学生の就職活動が本格化している。就活に臨む学生たちには「髪色は黒にするのが常識」という意識が根強い。筆者は大学3年生だが、髪を染めていた筆者の周囲の同学年の学生たちは、5月ごろまでには大半が黒髪になった。「就活では黒髪に」という暗黙のルールは、どのように生みだされているのか。就活生たちの声と、専門家の意見から考えた。【青山学院大・米田麗美(キャンパる編集部)】
◇決まりがなくても選ぶ「黒髪」
キャンパる編集部では、就活生の髪色事情に関するアンケートを実施。大学1年生から社会人4年目までの75人(女性52人、男性23人)から回答を得た。同アンケートで「明確な『黒髪指定』がない企業に応募する場合、黒髪にしなければと思うか」を聞いたところ、「そう思う」と答えた人は60人と8割(有意な男女差なし)を占めた。
「就活で黒髪にする理由」を自由記述で尋ねたところ、「常識」が15人、「社会人としてのマナー」が9人と、社会の“暗黙のルール”を理由に黒髪を選ぶという回答が合計で24人いた。「髪色は自由と書かれていても、黒髪の方が印象が良いという先入観がある」「就活生は黒髪のイメージが強いから」などという声も多かった。
◇髪色は適応性や人格を測る記号
就活における「黒髪志向」の背景には、何があるのか。化粧心理学や化粧文化論を専門とし、就活生の髪色事情についても詳しい京都光華大学の平松隆円(りゅうえん)准教授に聞いた。
平松准教授は「日本社会において、黒髪の扱いには特殊性がある」と語る。そして就活は、学生が社会人の仲間入りをするために必要な通過儀礼のような場であり、たとえ明文化された“黒髪ルール”がないとしても、「黒髪が単なる美的な好みを超えて、社会への適応や人格を測る記号として存在する」というのだ。
その上で平松准教授は次のように指摘する。「黒髪は『まじめ』『清潔』『従順』、さらには『協調的』『仕事にふさわしい』などといったイメージと結びつけられた。その一方で、黒色以外の髪色は『反抗的』『不適切』と判断されてきた」
◇黒髪押しつけには不快感や違和感も
ただ、地毛が黒ではない学生もいる。アンケートで「地毛の色について悩んだことがある」と答えた人は8人で、「中学校時代に地毛証明書を提出した」「入学する度に髪を染めているかどうかを確認され、悔しかった」「黒染めをしても、すぐに茶髪に戻る。地毛が明るいのに、入学や就活の度に黒染めしなければならない風潮があるのは不快」などといった声が寄せられた。「社会への適応度が高い人間」と評価されるためには、黒髪であることが必要なのだろうか。
アンケート回答者のうち、就活を終えた大学生や社会人の何人かに直接話を聞くことができた。航空業界で働く女性(24)は、顔を明るく見せるために、自然な茶髪に染めて就活をしたという。就活イベントや面接では黒髪で臨む学生がほとんどだったが、「黒髪にしないといけない理由がわからなかった」と疑問を呈した。
また「自分らしく働きたい」という理由で、髪形や髪色、服装が自由なベンチャー企業を選んだ大学4年生の女性(23)は、就活時の“黒髪ルール”について、「自分らしさで妥協したくない学生にとっては、選択肢が狭まる側面はあるのでは」と推測する。
◇「自分だけ不利益を被るのは嫌」
そうは言っても、「黒髪でなければ就職に不利かもしれない」という不安が、学生を縛っているのは事実だ。
筆者は大学2年生の時、髪を自分のこだわりのあるピンク色に染めた。しかし3年に進級する時、同級生から「一般的な就職を考えれば、そろそろ黒染めすべきだ」と指摘され、「就活に不利な要素は残せない」という思いから、現在は黒髪に戻して就活している。
アンケートでの「黒髪で就活する理由」の回答でも、「落ちた時に後悔したくない」「髪色を理由に不採用になるのが怖い」「真面目に見られたい」など、選考での印象向上やリスク回避を目的とする回答は17人いた。
就活は評価・採用の基準が分かりにくく、1回の失敗が採否を左右する。平松准教授は「就活生は、周囲の黒髪を『企業が求める正解』と読み取り、自分だけ異なることで不利益を受ける危険を避ける」と語る。これは「集団から外れたくないという規範的同調」だという。「誰もが本心では黒髪であることを必要と思っていなくても、『他の人や企業は必要と思っている』と推測して従い、“黒髪ルール”が再生産されている可能性もある」と平松准教授は分析する。
◇自由化の動きの一方で残る“縛り”
髪色の問題で企業側はどう動いているのか。目立つのは化粧品大手各社の動きだ。18年にはP&Gのヘアケアブランド「パンテーン」が、23年には、ロレアルのヘアケアブランド「ロレアルプロフェッショナル」が、就活や職場における髪色自由化の取り組みを後押しする大規模なキャンペーンを実施した。
個別企業でも、こうしたキャンペーンに賛同して髪色に関する社内規定自体を撤廃したり、従来の規定を緩和してより明るい髪色を容認したりする動きがマスコミ報道などで伝えられている。
ただこうした動きはまだ限定的なもので、就活生の間には、そして働く現場には、根強い“黒髪ルール”が残る。中学校の教師として働き、日々子どもや保護者、地域住民と接する女性(24)は「自分は誰でも好きな髪色にしたらいいと思うが、それが受け入れられない現状はある」と語った。また黒髪ありきの就活に違和感を覚えた航空業界で働く女性(24)も「私自身は髪色へのこだわりはないが、TPOを考えれば黒髪でなければお客さまなど周囲からの印象が悪くなるのでは」と語るなど、第三者の目線を“縛り”として意識する指摘があった。
こうした実態について、平松准教授は「企業は顧客を、公務員は住民や職場を、就活生は採用担当者を想定し、否定的な評価を先回りして避けようとする。髪色への偏見は自分の好みではなく、『社会の常識』として語られる」と分析する。さらに、皆が「自分は気にしないが、周囲は気にする」と考えることで、「結果的に視線や陰口によって“黒髪ルール”が維持される」背景を指摘した。
◇学生の自由尊重を
アンケートで「就活における髪色が大学生活と同じように自由になるとしたら、その方がよいと思うか」と尋ねたところ、「とてもそう思う」が23人、「すこしそう思う」が36人と、肯定的な回答が8割近くを占めた。“黒髪ルール”に従う考えが多数派でも、本音は必ずしもそうではない。
どうすれば事態は変わるだろうか。平松准教授は「まずは評価をする側、企業が先に変えなければ、“黒髪ルール”の再生産は止まらない」と話す。具体的には、企業が「髪色を評価対象にしないことを募集要項に明記し、適性や能力による評価基準を示す必要がある」という。大学のキャリアセンターも学生の自由を尊重する姿勢を明確にし、「『無難だから黒髪で』という指導を改めるべきだ」と指摘した。
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