9月閉館の相鉄ムービル 壁や床に「週刊漫画」で描く最後の物語

2026/08/17 11:00 

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 横浜駅西口のシンボルとして長年親しまれ、映画館や店舗が入る複合施設「相鉄ムービル」(横浜市西区)が9月30日に閉館する。

 最後の日を迎えるまでの残り2カ月間、館内の壁面や床など至るところに絵を描き、ビルを丸ごと「週刊漫画雑誌」のように見せる企画が進んでいる。

 「閉館まで何度も足を運び、漫画を通じて思い出を語り合ってほしい」と願いが込められている。

 ◇取り壊し前のビルに描く物語

 7月下旬、1階のエスカレーター脇で壁に油性ペンで絵を描く作家の姿があった。

 描いていたのはオリジナルキャラクターの「ムビィ」。映画館のポップコーンから生まれた設定で、壁から飛び出す恐竜などの「荒くれ者」たちに追われて館内を駆け巡り、困難に立ち向かっていくストーリーだ。

 ビルを一冊の漫画雑誌に見立て、隔週の作業で物語を更新している。

 ◇即興で物語に変化

 企画を考案したのは、地域密着型のクリエーター集団、一般社団法人「ツクリバ編集室」(川崎市高津区)の水野隆さん(53)。普段は漫画の総合出版社で編集長をしている。

 水野さんは横浜翠嵐高校出身で、ムービルは「青春時代の思い出のハブ」だったという。初デートでSFアクション映画「ターミネーター2」を見たり、部活仲間と駅前の飲食店に寄ったりしていた。

 閉館に向けたイベントを練っていた相鉄グループに、取り壊しになるビルで漫画を展開することを提案した。水野さんは「変化していく過程を共有することで、思い出を掘り起こしてほしい」と狙いを語る。

 ツクリバ編集室に所属する作家のほか、市内の高校生らも参加。描き手の個性や現場で生まれたアイデアを尊重し、描き込みが増えるたびに即興で少しずつ物語が変化していくのも魅力だ。

 ◇「表紙」を担当したのは…

 ゲストの「飛び入り参加」も実現している。その一人が「ガムテープ職人」として知られる佐藤修悦さん(72)だ。

 警備員歴27年。勤務先の新宿駅でガムテープで作った案内看板が話題を呼び、今春には「ナイキ」の新店舗の広告をデザインしたり、鉄道会社から案内表示の制作依頼を受けたりするなど注目を集めている。

 佐藤さんは今回、漫画の「表紙」を担当した。カッターを巧みに操り、ファンから「修悦体」と呼ばれる独特の字体で「週刊ムービル」の題字と「温故知新」の四字熟語を浮き上がらせた。

 佐藤さんは喫茶店「ルノアール」の桜木町店などで店長経験もある。「横浜駅西口もずいぶんと変わった。過去の歴史は消えないし、新しいものができるのは楽しみ」と笑顔を見せた。

 8月20日には、映画化された小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」などで知られる小説家の燃え殻さんが壁面にエッセーを「執筆」し、漫画家の大橋裕之さんが「挿絵」を描く企画も予定されている。

 描かれた作品たちはビルの解体とともに姿を消す。それでも水野さんは言う。「かつてムービルで上映された映画がスクリーンから消えた後も大切な思い出として残り続けるように、『消えない物語』として残ってほしい」【神内亜実】

 ◇相鉄ムービル

 現在のビルは2代目で、1988年に開業。五つのスクリーンを持つ映画館は日本のシネコンの先駆けとなり、かつては民営の劇場やジャズバーなども併設された。相鉄グループは2024年、横浜駅西口の再開発の構想を発表。相鉄ムービルの閉館とともに、隣接するライブハウスや居酒屋横町「横浜西口一番街」も営業を終える予定となっている。

毎日新聞

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