熊本地震の「震源地」を訪ねると…見えてきた被害の深刻さ
活断層のリスクをあらわにした熊本地震は18日、発生から3週間がたった。電気や水道の復旧が徐々に進み、避難者数はピーク時の3分の1以下に減少したが、被害の深刻さには地域差がある。
「震源地」と言われる場所を訪ねると、路面のあちこちで亀裂や段差が生じていた。庭先の地割れが室内まで及んだ民家もあった。
◇「もう帰れない」
震度7を観測した熊本県氷川町の吉本地区。江戸時代前期の1638(寛永15)年から白玉粉の製造などを手がけてきた和菓子店「白玉屋新三郎」の15代目、牛嶋俊夫(しゅんすけ)さん(36)は力なく語った。「この辺りが震源地でしょうね」。眼前の老舗は揺れの衝撃で扉が吹き飛んでいた。
7月28日夕の地震発生時は店舗奥の事務所にいた。「ゴー」という地鳴りが聞こえた途端、激しく横に揺さぶられ、立っていられなくなった。けがはなかったが、風雪に耐えてきた木造店舗のゆがみは隠しようがなかった。8月5日、牛嶋さんは苦渋の表情を浮かべた。「現状は無期限で休業という形にしている」
近くの60代女性は、庭に50センチ以上の段差ができ、家全体がゆがんだ。避難生活を余儀なくされ「もう帰れない。そう考えると涙が出てしまう」とこぼした。
◇「震源地」の被害は…
ただし、吉本地区は厳密な震源地ではなかった。気象庁が公表している「推計震度分布」によると、震央(震源地)は白玉屋新三郎から北西約2・3キロ。熊本県宇城市のJR鹿児島線小川駅近くの住宅街にある。6日に訪れると、所々の瓦屋根にブルーシートが張られていたが、周囲に地割れはほとんど見当たらなかった。意外にも震源地の被害はそれほど大きくないようだ。
推計震度分布が示す震央は、あくまで速報データに基づく推定の位置。その後、東京大地震研究所がさまざまな観測データに基づき、より正確な位置を割り出したところ、震央は白玉屋新三郎から北西約5・2キロの宇城市松橋(まつばせ)町付近だった。誤差を考慮すると、そこから約400メートルの範囲に実際の震央があるという。
そこものどかだった。青々とした水田にサギのような白い鳥がたたずむ。肩にタオルをかけた女性が、自宅を出入りしながら、揺れで倒れた食器棚などを片付けていた。地震直後はあまり聞かなかった救急車のサイレンをここ数日、よく聞くという。「多分、熱中症だと思う」
◇震源から離れていても
震央は震源の真上にある地表の地点。地震は震源で始まるが、大地震では断層の広い範囲がずれるため、揺れの発生源は震源だけでなく、断層がずれる領域全体(震源域)となる。このため、震源から離れていても、断層が地表近くでずれた地域では、家屋倒壊や路面の亀裂などの被害が深刻化する。
日奈久断層帯に近い氷川町の吉本地区と隣接する宇城市小川町地区もこうした地域の一つ。建造物の被害が際立ったため、多くの地元住民が震源地だと考えたとみられる。
両地区は江戸時代、参勤交代の行列が通る「薩摩街道」の宿場町として栄え、今も商店街が名残をとどめる。しかし、2016年の熊本地震で被災し、建物を取り壊した跡は空き地になったという。今回の地震は追い打ちをかけた形だ。
旧街道沿いの古本屋「かんまち文庫」の大家、那須信明さん(76)は片付けの手を止め、町の未来を案じた。「個人の力だけでは再建や修繕は難しい。このままでは古い街並みがなくなってしまう」
◇被災した寺で炊き出し
そこから約50メートル先の延福寺は炊き出しを求める住民と、駆けつけたボランティアらで慌ただしかった。境内には長さ十数メートルの亀裂が走り、段差が出現。本堂は基礎部分がむき出しになっていた。ただ、足元に気をつけながら食事を受け取る住民らには時折、笑顔も見えた。報道で炊き出しを知り、市内から手伝いに駆けつけた元古民家レストラン代表の森田加代子さん(75)は、キノコソースのハンバーグ丼を約100食分用意。鍋をヘラでかき混ぜながら満足げな表情を浮かべた。「うん、おいしそう」
約400年続く寺の歴史を踏まえ、住職の能令顕真(のうりょうけんしん)さん(53)は「ここを離れようという思いはさらさらない」と言い切る。
地震の前、寺はヨガ教室や大正琴、そろばんなどの習い事の他、子どもに食事や居場所を提供する「子ども食堂」も実施していた。炊き出しは地震当日から始めた。能令さんは落ちた瓦を屋根にふき直す作業に励み、汗を拭った。「寺は地域とのつながりの中で育てられてきた。今はとにかくみんなでこの非常事態を乗り越えたい」【古瀬弘治、林帆南、戸田紗友莉】
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