米子松蔭、兄の思いも背負って甲子園に挑む三塁手 選抜高校野球
4年前に甲子園を目指していた兄が経験した出来事は、17年の人生で最も印象に残っている。第97回選抜高校野球大会に33年ぶり2回目の出場となる米子松蔭(鳥取)の久白(くしろ)拓人三塁手(3年)は家族といとこの計4人が同校野球部OBで、中でも4学年上の兄には「ずっと背中を追ってきた」と特別な思いを抱く。「野球一家」で初の甲子園球児となり、兄の果たせなかった夢にも思いを巡らせて聖地に立つ。
久白選手の父弘行さん(51)は米子松蔭の前身・米子商で白球を追い、兄優人さん(21)は米子松蔭の二塁手だった。いとこ2人も2017年夏の甲子園出場時に部員だったが、ベンチ外だった。
学童野球の指導者である父や兄の影響により、久白選手は小学1年生で野球を始め、兄と同じチームで練習。「兄弟で学年が4年も離れると、あまり教え合う感じにならない。僕は兄の後にノックを受けたりして、兄のプレーを見て学んだ」と振り返る。兄の中学入学以降は普段の練習は別々になったが、兄の後を追って米子松蔭に進んだ。
◇出場辞退から一転出場
優人さんは高校3年生だった21年に春季鳥取県大会優勝に貢献。チームは優勝候補として夏の鳥取大会に臨んだ。だが、初戦(2回戦)前日深夜、学校関係者1人の新型コロナウイルス感染が判明。野球部員らは陰性を証明する時間がなく、出場辞退で不戦敗となった。ところが、翌日に当時の主将がツイッター(現X)に悲しい心情を投稿。不戦敗撤回を求める声が全国的に起き、一転出場が認められた。
その試合で米子松蔭は0―2の九回裏に3点を挙げ、逆転サヨナラ勝ち。塩塚尚人監督(33)は「選手たちに『グラウンドで感謝の気持ちを持ち、それを力に変えて全力で戦う』と伝えた」という。ただ、出場を巡って数日間振り回された選手たちの心身の状態は万全ではなく、準々決勝で敗退した。
久白選手は当時、寮生活の兄とはじかに接しなかったが、「野球の試合ができることは当たり前ではない。兄たちが出場できたのは、多くの方の協力や後押しの力があったからだ」と強く感じたという。その試合をスタンドで観戦して「高校生の一生懸命なプレーに感動した」と話す。
高校では下級生の頃からレギュラーだったが、昨秋は打率1割7分9厘と不振。準優勝した中国地区大会の途中で打順を2番から7番に下げられた。この冬場に「打撃、守備ともフォームを見つめ直し、基礎を徹底してやった」と奮起した。
◇初勝利を目指す
米子松蔭は今大会開幕日の18日、花巻東(岩手)との1回戦で大会初勝利を目指す。優人さんは高校卒業後、大阪の柔道整復師の専門学校に進み、その日は卒業式のために応援に来られない。大舞台に挑む弟に「頑張れよ」と激励しつつ、応援に行けない日程になり、「惣郷峻吏(そうごう・しゅんり)主将は(くじを)引くところが悪いな」と冗談を飛ばしたという。
「父も兄も出られなかった甲子園に自分は出られて貴重な経験。一生懸命、楽しくプレーしたい」と意気込む久白選手。「2回戦は兄も甲子園に来られる。絶対に勝ちたい」と誓っている。【来住哲司】
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