「第二の古里」守りたい 77歳原告、子や孫のために 伊方原発訴訟
転居を重ねてきた人生だったが、3人の子供を育てた松山市は「第二の古里」になった。14年前に東京であの地震を経験し、福島の辛苦を見聞きした。「原発に頼らない社会を作り上げなければならない」。子や孫への責任だと強く思っている。
松山市の泉京子さん(77)は、約1500人に膨らんだ原告に名を連ねている。地元の市民団体「伊方原発をとめる会」で精力的に活動してきた。
神戸市で生まれ育ち、大学卒業後は東京で高校の英語教師になった。大学教員だった夫の勤務先が変わり、20代後半で松山へ。「脱原発」の考えはあったが、仕事と3人の子育てに追われる日々だった。
松山で30年以上を暮らした頃の2007年、定年退職し、再び東京に移り住んだ。長男の離婚に伴い、小学生の孫2人の面倒を見るためだった。
4年後の東日本大震災。東京は震度5強を観測した。急いで台所のテーブルの下に潜った。思わず「どうかこの揺れを止めて」と口走った。しばらくして学校から帰ってきた孫は声を上げて泣いた。
「日本はどうなるのか」。テレビでは連日、東京電力福島第1原発事故を報じていた。第二の古里を思った。松山は伊方原発から50~60キロに位置する。「原発にきちんと向き合わなければならない」と思うようになった。
地震から2年後、伊方3号機の運転差し止めを求める訴訟の原告を募集していると知り、夫とともに裁判に加わった。松山で再び暮らし始め、法廷に何度も足を運んだ。
「人類と原子力は共存できない」。裁判での主張を聞き比べ、原発に関わる本を読みあさるうちに考えが深まった。放射線の被害は長期間、世代を超えて人々の体や生活に影響を与えるからだ。
そして、19年にあった法廷での意見陳述。「決して原発を動かすべきではない」と訴えた。「福島の反省もなく、なし崩し的に原発が再稼働されていく現実に胸がふさがる思いだ」とも強調した。
松山で新たに作った墓には両親が眠っている。子や孫にとっても帰るべき古里になり、「原発事故で失うわけにはいかない」。原発依存から脱し、自然エネルギーで暮らせる社会に。そう訴え続けた裁判だった。【山中宏之】
◇四国電力伊方原発
四国電力が唯一、愛媛県伊方町に持つ原子力発電所。佐田岬半島の付け根に立地する。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転開始。2010年からはウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を実施している。1、2号機は運転を終了し、廃炉作業が進められている。
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