選手と年の差は倍以上 車いすカーリングチーム支えた23歳のコーチ
「心は熱く、頭は冷静に」。この言葉がこれほどぴったりな人はいない。ミラノ・コルティナ冬季パラリンピックに出場した車いすカーリングの中島洋治(61)、小川亜希(50)両選手=チーム中島=の戦術面をリードしたのが、荻原詠理コーチ(23)だ。2人とは倍以上の年齢差があるが、時には思いのこもった言葉で鼓舞し続けた。
7日の英国戦後のミーティング。1次リーグ突破に向けて負けられない試合を落とした2人に荻原コーチは語りかけた。「後悔をしてほしくない。終わった後にやり切ってよかったなって思えるように、私たちもサポートするから頑張ろう」。小川選手は「(試合中)こうすればよかったと思っていた部分もあったので、悔いを残さないようにしようと前を向くことができた」と振り返る。
荻原コーチは小川選手と幼少の頃から親交がある。荻原コーチの両親が軽井沢(長野県)で営むペンションに、毎シーズン宿泊に来ていた。小川選手が2003年にスキー中に転倒し脊髄(せきずい)を損傷した後、最初の遠出先に選んだのも、このペンションだった。
荻原コーチは5歳でカーリングを始め、初めて出た大会では小川選手とペアを組んだ。大学時代には世界ジュニア選手権で優勝するなど、選手としてのキャリアを順調に積み重ねてきた。その経験を買われ、24年に小川選手らからサポートを頼まれ、「こんな機会をもらえたのがうれしい。私にしかできないこと」と快諾した。
加入して課題と感じたのはコミュニケーションの不足だ。長い間ペアを組んでいると、言葉を交わさずとも相手に自分の考えが伝わっていると過信してしまう。カーリング場の氷は気温や湿度などで刻一刻と表情を変えるため、意見交換の不足が命取りにもなる。「本番でコミュニケーションを取れなかったから負けたと悔しい思いをしてほしくない。話のきっかけを作るようにした」
年齢差はあっても、ときには厳しいことも口にしてきた。ミラノ・コルティナ大会出場の切符が懸かった25年3月の世界選手権。負けが続いた場面で「諦めてないよね。パラリンピックに行きたいのは誰?」と問いかけた。「私たちが行きたい」。そう答えた2人は残りの試合で盛り返し、16年ぶりとなるパラリンピック出場を勝ち取った。
荻原コーチは中学生時代、英語の弁論大会で「カーリングの力」と題した作文を発表した。小川選手との交流で知った競技の魅力をつづり、「カーリングは障害のある人も、健常者も平等にプレーできる。将来、亜希さんと一緒に同じオリンピックに出場できると信じている」と結んだ。
今大会では、荻原コーチは小川選手たちに氷の状況やストーンの曲がり具合を伝え、粘り強く戦った。9日のラトビア戦で敗れ、1次リーグ突破はならなかったが、一緒に世界に挑んだ時間は特別なものとなった。試合後はハイタッチで互いをねぎらった荻原コーチは「私も選手として勇気をもらった。こんな大舞台に私を連れてきてくれて本当にありがとう」と健闘をたたえた。【コルティナダンペッツォ遠藤龍】
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