高齢者の住宅確保、国のセーフティーネット機能せず 専門家の見解は

2025/06/05 06:30 

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 「高齢者歓迎」を掲げる賃貸住宅が近年広がり、入居者が増えている。一方で、高齢者らが住まいを確保できるように支援する国の制度は活用されているのだろうか。調べてみると、セーフティーネットの役割を果たしているとはいえない実態が明らかになった。

 以前から、住宅を借りにくい「住宅弱者」を支えてきたのが公営住宅だ。安価な家賃で入居できるが、都市部を中心に応募倍率が高く入居が難しい。加えて、管理する自治体の財政難などで大幅な増加は見込めなくなったという。そこで政府が委ねたのが、空室が増えている民間の賃貸住宅だった。

 政府は2017年に現行の「住宅セーフティネット制度」を施行した。高齢者らの入居を拒まないとする住宅を民間から募り登録。都道府県などが情報提供して住まいの確保につなげる。

 ◇登録の95%が大手1社に

 この制度で登録された住宅は25年3月末時点で約94万戸に達したが、課題は多い。制度について調査研究した摂南大学現代社会学部の平山洋介特任教授は「制度が民営借家の家主層に受け入れられ、浸透したからではない」と指摘する。

 平山氏の調査によると、23年3月時点の登録住宅のうち、95・5%と大部分を大東建託の子会社「大東建託リーシング」(東京都)が占めた。一般家主はわずか1・9%にとどまっている。

 さらに、国土交通省によると、住まいの確保が必要な高齢者らがどの程度利用しているかといった統計は「ない」という。担当者は「入居時に(高齢者など)区分を聞くのは適切ではないため」と説明した。

 ◇登録住宅の8割超を一般が利用

 そこで、登録住宅の大部分を占める大東建託リーシングの担当者に聞いた。22年8月時点でセーフティネット登録住宅とした物件の利用者は、高齢者(60歳以上)約4%▽外国人約1%▽子供を療育している人約6%▽低額所得者約1%。高齢者らの利用は極めて少なく、8割超が一般利用者だった。

 国が民間住宅を活用するのは空き家対策でもある。平山氏は「国は登録件数の目標数値を達成することにとらわれ、高齢者らを救うという本来の目的を見失っている。登録という手段が目的になってしまい、効果の上がらない制度になっている」と批判した。

 一般家主に広がらない背景について「家主に何のメリットもない制度の仕組みでは、登録するはずがない」と続けた。家主の利点として、住宅の改修費用の補助や、家賃低廉化といった経済的支援がある。ただ、利用には、入居を高齢者らに限った「専用住宅」として10年以上登録することが条件。大東建託リーシングが制度に登録した住宅には専用住宅はない。「専用住宅にするにはいろいろ制約があるため現状では難しい」(担当者)という。

 ◇高い家賃が高齢者には負担

 住宅セーフティネット制度は10月に改正法が施行される。国交省と厚生労働省が連携し、住宅と福祉対策を一体化することで、ワンストップの支援体制が期待される。入居者が死亡した時に賃貸借契約を解除できることや、残置物を円滑に処理できる条項を加え、家主の負担軽減につなげる。

 平山氏は、制度の根本的な課題は「一般住宅と変わらない家賃。国民年金しか収入がない高齢者にはとても払えない」とも指摘する。制度が活用されるためには、「制度に登録した住宅への公的補助を拡大し、公営住宅並みに低家賃のセーフティネット専用住宅にすることだ」と説く。

 このほか、先進諸国で広く導入されている「入居者本人への家賃補助制度の整備も住宅政策として効果的」という。こうした住居費への公的補助の拡充は「生活保護を利用するほど困窮することなく、生活を維持できる人を増やす」としている。【嶋田夕子】

毎日新聞

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