オレンジ色のウマイやつ 街角で増殖する生搾り自販機 狙いを聞いた

2025/06/06 12:00 

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 自動販売機の外観から見える生のオレンジ。お金を入れると、約45秒で「生搾りオレンジジュース」が出来上がる。そういえば最近、この自販機を街角で見かけませんか?

 「近年の健康志向の高まりで、その場で搾る『フレッシュさ』や、水や砂糖が入っていないことに魅力を感じ、大人の方が繰り返し購入されているようです。お子さまにねだられて購入し、親がハマってしまったという声もよくいただきます」

 ◇発祥はシンガポール

 自販機を展開するのはシンガポールで創業した「IJOOZ(アイジュース)」。日本法人代表取締役の堀木遼さん(35)は、日本市場の動向をそう分析する。足もとで月平均50~100台のペースで設置を急拡大。ジュースの販売数も右肩上がりのようだ。

 東武鉄道の池袋駅(東京都豊島区)の地下中央改札近くには4台が設置され、親子連れや外国人、仕事帰りのサラリーマンらが時に列を作りながら、次々にジュースを購入していく。

 お金を入れると、自販機内で温度管理されたオレンジ平均4個が機械で搾られ、フタの付いたカップに入った状態で提供される。場所によって変わるが、アイジュースは1杯350~400円で販売している。自販機内でオレンジが転がる様子を面白そうに携帯電話で動画を撮る子どもや、一気に5杯まとめ買いする男性もいた。

 埼玉県の会社員、岩下侑冬(ゆうと)さん(34)は週1回程度、仕事帰りの乗り換えの電車を待つまでに、この自販機を利用するという。「自販機にしてはちょっと値段が高いけど、味がおいしい。カフェと比較すると、手軽で値段もあまり変わらないからよく利用している」と話す。

 アイジュースが日本で生搾りオレンジジュース自販機の設置を始めたのは2023年4月。年々設置スピードは加速しており、今では1日4台設置の日もある。今年5月末時点で約1700台が稼働しているという。

 ◇きっかけはハレの日

 わずかなスペースで設置できる自販機形態だが、堀木さんによると、やみくもな設置は避けているとする。

 「購入者層は女性が6割で、子どもから会社員まで幅広い。だが、最初に買うきっかけは家族連れが物珍しさで関心を持ったり、女子高校生が友達同士で『映え』を意識したりするケースが多い」と説明する。

 そのため、同社が「設置の大原則」とするのが、通行客や観光客、買い物客が多い場所だ。

 家族連れが訪れるショッピングモールや駅ナカ、駅ビルは特に相性が良く、「ちょっとしたハレの日に立ち寄る場所の設置優先度を高くして選定している」(堀木さん)。今年3月に設置した広島駅ビル「minamoa」では、1台で1日最大436杯の売り上げを記録するなど、好調な売れ行きを見せているという。

 購入者による交流サイト(SNS)での拡散の影響も小さくない。

 ジュースが出来上がるまで自販機内でオレンジが転がる様子が見られるエンターテインメント性や、カップや自販機のデザインが「映える」として、SNSでは女子高校生らの写真やショート動画の投稿も目立つ。

 また、設置場所を提供するオーナーからの問い合わせも設置台数拡大の背景にある。

 自販機は買い取りではなく、機械のメンテナンスやオレンジの補充などをアイジュース側で全て完結させており、オーナーには売り上げの一部が入ってくる。

 デジタル画面やネオンの看板を採用しているため、「場所として明るいイメージを持たせたい」「新しいことをやっているエリアだという印象を気軽に付けたい」などの狙いで問い合わせを受けるケースも多いという。

 ◇「絶妙な価格設定」

 近年続いていたオレンジ価格高騰も、売り上げ増加を後押しした。オレンジ生産主要国であるブラジルでの病害や干ばつなどが影響し、23年ごろから大手飲料メーカーによるオレンジジュースの値上げや一部商品の販売休止が相次いだ。

 一方、アイジュースはオレンジを米国、オーストラリア、エジプトなど産地を分散させてブレンドしながら提供。また、シンガポールで一括調達しているため、価格への影響はほとんどなかったという。

 また、同社は人工知能(AI)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた「AIoT」企業として、アイジュースの各自販機にもSIMカードを搭載。売れ行き状況や自販機内のオレンジ、カップの個数などの情報がリアルタイムでドライバーに送られるように開発している。ロスや在庫を最小限に抑え、効率良い補充ルートを算出しており、販売機会を逃すことのないよう業務効率化を図っている。

 堀木さんは「日本は自販機大国であり、生搾りオレンジジュースの自販機が浸透するポテンシャルがとても高い国だと思っている。まずは自販機の機能充実を進めながら今後も展開していきたい」と期待を込める。

 企業動向などに詳しい分析広報研究所の小島一郎チーフアナリストは「エンタメ性と、健康ブームという時代の流れ、絶妙な価格設定で支持が広がっている。一方で、コンビニや飲料メーカーなどは日々多様な商品展開でしのぎを削っており、自販機市場は飽和状態でもある。一過性の注目で終わらせないための、ブランド定着に向けたさらなる戦略が今後問われるだろう」と話した。【松山文音】

毎日新聞

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