トイレカーを徳島の「特産品」に 能登半島地震で注目、県が普及期待

2025/09/21 07:45 

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 「メード・イン・徳島」と聞いて連想するのは何だろう。清潔感あるジャパンブルーの阿波藍製品、甘辛い豚バラ肉をのせた徳島ラーメン、爽やかなスダチを使った調味料、鳴門の渦潮にもまれて育ったワカメ製品……。水害や地震など災害が相次ぐ今日、注目を集めるある製品について、徳島県が「メード・イン・徳島」として県内外から注目される存在に育てようと試みている。その製品とは――。

 ◇能登半島地震で注目

 県は4月下旬、ある製品を導入するため、基本コンセプトを公表した。そこには、「衛生的で快適に使用可能」「ライフラインが途絶した中でも継続的に使用可能」「女性や高齢者等(など)が使用しやすい配置と設備・機能」などの文言が並ぶ。

 事業の名前は「提案型トイレカー導入事業委託業務」。総重量5トン未満で、業界では「中型」と位置付けられるトイレカー1台を1500万円以内で導入する内容だ。ライフラインが途絶した避難所で「トイレパニック」が問題化した能登半島地震(2024年1月)の際、各地から被災地入りしたトイレカーが活躍し、注目された。ただそれ以降、地方自治体でトイレカーの導入が相次いでおり、それ自体、珍しいわけではない。

 ◇プロポーザル方式で

 他の自治体と少し違うのは、その調達方法だ。まずプロポーザル(企画競争入札)方式である点。基本コンセプトとともに公表された「仕様書」には、被災地で給水やくみ取りが可能であることや水洗式といった備えるべき基本性能や機能を挙げている。そういった基本性能や機能を満たす車両を考えて設計・提案し、ベース車を改造・加工してトイレカーに仕上げて納入する事業なのだ。

 トイレカーを巡っては、細かな仕様書にあわせて業者が改造し、自治体が完成車を購入する例が多いという。県も8月にトラックを改造した大型トイレカー1台を2620万円で「購入」している。

 ◇県への権利譲渡は不要

 さらに、今回の事業で決定的に違う点がある。この事業では、基本コンセプトや仕様書の内容を反映させた図面を含む設計書の作成業務が含まれる。こういった書類作成を含む事業の場合、設計書など「成果品」の著作権といった権利全てを、発注側の県に無償譲渡させるよう、仕様書に盛り込むことが多い。

 実際、県が8月からプロポーザル方式で公募した保育料無償化事業関連の委託業務では、仕様書に「成果品に係るすべての著作権及び、その他一切の権利は、徳島県に無償で譲渡する」という一文がある。アイデアや意匠などの作成を委託した場合、その権利を県に無償譲渡してもらう形になる。

 ◇2台目以降も可能

 ところが、今回、県は図面などに関連する権利をあえて求めず、業者の手もとに残す方針だ。このため、業者は知恵を絞り、創意工夫を凝らして作成した図面を基にトイレカーを完成させて県に納入した後も、手もとの図面を生かし、2台目、3台目のトイレカーを作り、自ら売り出せるのだ。

 県の狙いはここだ。県内で車両改造を手がける業者は複数あり、県は今回の事業によって中型トイレカー改造のノウハウを取得してもらい、今後、県内外の自治体で需要が高まっているトイレカー市場への参入を促したい考えだ。将来的には、受注が続けば、県内経済への寄与も期待できることから、中型トイレカー事業では、応募者の資格を県内に本社を置く事業者に限定した。

 ◇県内外での普及狙い

 公募に応じた業者については、外部有識者も交えた企画提案選定委員会が審査し、トラックや建設現場で使う車両などを扱う中央自動車(徳島市)が選ばれた。同社の仁木久智専務は「トイレカーを手がけるのは初めてだが、情報はオープンにし、弊社以外でも修理に対応でき、洗いやすく使いやすい車両を作りたい。災害はどこで起こるか分からないから、作った業者しか直せない車両だと、災害時には使えない恐れがある」と話している。

 県の担当者は「今回提案してもらうのは、細い道の先にある小規模な避難所にも行けて、取り回しも容易な中型のトイレカー。(大型トイレカーに比べ)小さな自治体でも導入しやすく、県内外で普及すれば、大規模災害時にも互いに応援できる」とした上で、「避難所の環境を確保するのにトイレカーは大変重要なので、今までないようなものを作ってほしい」と期待している。

 ◇車椅子用リフトや空調も完備

 8月に導入された徳島県初のトイレカーは全長約7・1メートル、全幅約2・2メートル、高さ約3・2メートルで、3トントラックを改造した。男性用、女性用、多機能用の3スペースに分かれていて、出入り口も別々に設けられている。男性用、女性用はさらに洋式便器のある個室が各二つ設けられているほか、男性用には小便器もある。車体後部の多機能用には、車椅子に乗ったまま利用できるようリフトが横付けできるようになっているほか、オストメイト(人工肛門などの利用者)用の便器やおむつ交換台、幼児を座らせるベビーキープも備えている。

 トイレの水洗や手洗いに使う貯水用タンクの容量は約700リットルで、標準的な使い方なら、300~400回使えるほか、被災地で水を補給したり、排水用タンク(容量約960リットル)から汚水を抜けば、利用し続けることも可能。空調も完備している。

 県は能登半島地震(2024年1月)を踏まえ、24年6月の補正予算で導入事業費2673万円を計上した。しかし、地震後、各地の自治体から業者にトイレカーの発注が殺到したことから、納車に時間がかかっていた。【植松晃一】

毎日新聞

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