滑走路増設の成田空港、周辺に大規模物流拠点 輸出をスピーディーに
成田空港は滑走路の新増設により航空機の年間発着能力が現在の34万回から50万回に拡大し、旅客とともに貨物の取扱量も大幅に増える見込みだ。国際貨物の新たな需要を当て込み、空港の周辺では大規模な物流拠点の整備が始まっている。
不動産大手のヒューリックが、日本航空とともに空港の北西約10キロの成田市下福田地区で工事を進めているのが「WING NRT」(ウイングナリタ)だ。約45万平方メートルの敷地に、税関で輸出入の手続きをする前に貨物の一時保管ができる施設「保税蔵置場」(4階建て、延べ約15万平方メートル)と巨大な物流施設(2階建て、管理棟を含め計約30万平方メートル)を配置する。
一番の売りは物流施設と保税蔵置場の一体的な運用だ。日航などによると、商品の輸出は通常、国内各地の物流倉庫から航空機に積み込まれるまで1日から1日半かかる。その間に運送業者の施設、空港内にある航空会社の保税蔵置場などを経るためだ。
ウイングナリタでは物流倉庫と保税蔵置場の集約によって、注文を受けてから最速6時間で航空機に乗せることができる。また、通常は空港内で行う税関の手続きや動植物の検疫も実施できるようにする。自動車部品から医薬品、生鮮品まで幅広く扱う予定だ。
新滑走路が運用を始める2029年3月までに、ウイングナリタを稼働させる。日航貨物郵便本部は「輸出に必要な手続きをすべてここで終え、空港は通過するだけになる。これまでにないスピードで海外へ商品を届けられる」と説明する。
一方、空港の東に隣接する多古町飯笹地区では、国際的な不動産会社「グッドマングループ」が敷地約70万平方メートルの巨大な物流拠点を計画している。この地区を、通関前の貨物の一時保管から加工、運搬までできる「総合保税地域」にして、成田空港で新たに整備される新貨物地区と一体的に運用する想定だ。用地買収を進め、29年3月には少なくとも1棟目を稼働させたいとしている。
◇NAAが目指す「正のスパイラル」
国や成田国際空港会社(NAA)は滑走路の新増設を機に、貨物の積み替えの要衝となる「国際ハブ空港」として存在感を高めることを目指している。
成田空港の国際貨物取扱量は1986年から10年連続で世界一だったが、アジア諸国の台頭により徐々に低下した。NAAによると24年は過去最低の10位に転落する見通しだ。
滑走路の新増設により、航空機の発着回数が増えて、国際貨物取扱量は194万トン(24年)から300万トンに伸びると予測されている。
その伸びを確実にするため模索されているのが、貨物の三国間輸送の拡大だ。旅客のトランジット(乗り継ぎ)のように成田で積み替え、最終目的地に貨物を運ぶものだ。特に、今後も大きな成長が期待されているアジアと北米を結ぶ三国間輸送では「韓国や台湾より北米に近い分、成田が有利になる」と関係者は期待する。北米に近いだけ少ない燃料で飛ぶことができ、その分貨物を多く搭載できるからだ。
NAAの奈良原禎和・貨物営業部長は「貨物取扱量が増えれば航空会社が路線を拡大し、それによりさらに貨物が増える。そんな正のスパイラルを作っていきたい」と話している。【合田月美】
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