押井守監督、アニメーションとは「人間の手による仕事」 業界愛あふれるビデオメッセージ

2025/03/16 08:20 

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「第3回新潟国際アニメーション映画祭」オープニング作品『イノセンス』上映前トークイベントで流れた押井守監督のビデオメッセージ (C)ORICON NewS inc.

 新潟市中央区で15日、「第3回新潟国際アニメーション映画祭」が開幕し、オープニング作品として押井守監督の『イノセンス』(2004年)が上映された。本編上映前には、押井監督から10分に及ぶビデオメッセージが上映された。メッセージの要約は以下のとおり。

【画像】長編コンペティション部門12作品のメインカット

――映画『イノセンス』が時代を超えてファンから支持され、愛され続けていることについてどう思われますか?

【押井】『イノセンス』について語ってほしいということですが、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)もそうでしたが、この作品も10年、20年経っても消えることなく残り続けるのではないか、そんな意識を持って取り組みました。もしかすると、公開当時はそれほど話題にならなくても、いずれ多くの人に語られる作品になるのではないか――そういう作品にしようと考えていました。

 映画はドラマやキャラクターなどいろんな側面がありますが、純粋に映像そのものが持つ情報量が重要だと私は考えています。単に情報量を増やすだけなら、4Kや8Kといった高解像度技術の話になるかもしれませんが、私が目指したのはそういうことではありません。重要なのは、ひとつの世界観をどれだけ濃密に表現できるかという点です。

 『イノセンス』では、デジタル技術だけでなく、当時のアニメーターが持っていた高度な作画技術も駆使しました。作画や背景はもちろん、動きのひとつひとつに至るまで、自分たちにできることの限界に挑戦することができた珍しい作品。おそらくそのことが、こんなに時間が経った後でも人々が『イノセンス』を観たいと思う理由だと思います。

 作品のテーマ自体も古びていません。この作品は、人間のあり方が将来どのように変化するかを扱った作品であり、その問いは現代にも通じるものです。『イノセンス』が今どのような視点で観られているかは分かりませんが、確かなのは、その「イメージの力」がいまだに多くの人の心を動かしているということです。

 こうした作品は、もはや二度と生まれないかもしれません。どれだけデジタル技術が進化しても、それだけでは『イノセンス』のような作品は作れません。アニメーションや背景美術の世界は、テクノロジーではなく、テクニック、つまり「手の技術」によって支えられてきました。しかし、残念ながらこうした技術は次の世代に十分に継承されているとは言えません。それを考えると、アニメーションとは、やはり「人間の手による仕事」なのだと改めて実感します。正直に言うと、同じような作品をもう一度作るのは不可能だと思っています。

――今後のアニメーション映画について

【押井】未来のアニメーションがどうなるか、私にもわかりません。ただ、はっきりしているのは、「どうなるか」ではなく、「どうしたいか」が重要だということです。

 アニメに携わる人々や夢を持つ若い人たちが、「何をやりたいのか」を明確にし、それをテーマとして考えていくこと。それが、結果としてアニメーションの未来を決定づけるのだと思います。これはどんな表現ジャンルでも同じことですが、優れた作品が生まれ続けることで、未来は形作られていきます。私は、一つでも多くの素晴らしい作品が世に出ることを願っています。

 私自身は、これまで最善を尽くしてきましたが、年齢を重ねました。これからは、もう少し気楽に映画を楽しみながら時間を過ごしたいと思っています。その分、若い世代の皆さんにぜひ挑戦してほしいですね。日本だけでなく、世界のどこであっても、こうした真剣な戦いに挑む若い才能が必要です。

 できれば、エンターテインメントの世界から新しい動きが生まれると、それがより大きなインパクトを持っていいな、と思います。個々の優れたアーティストが生み出す作品ももちろん大切ですが、集団の力によって生まれるエンターテインメントの中にも、鋭い視点を持つ作品が現れることを期待しています。

――「新潟国際アニメーション映画祭」の観客へのメッセージ

【押井】私は第1回のコンペティションで審査委員長を務めました。そのとき、「この映画祭が3回続いたら素晴らしいな」と思っていたのですが、今回で本当に3回目を迎えました。当初の目標が達成されたわけですね。しかし、映画祭が今後も続いていくかどうかは、集まる作品や上映される映画の質にかかっています。この映画祭は、世界でも数少ない長編アニメーションに特化した映画祭です。短編アニメーションの映画祭は数多くありますが、長編に焦点を当てたものはほとんどありません。だからこそ、この映画祭が世界中から注目されるようになることを願っています。

 いずれにせよ、良い映画が集まることが、映画祭の未来を決めるでしょう。映画祭を盛り上げるために、関わる皆さんにはぜひ頑張っていただきたいと思います。もしかしたら、私自身の作品をこのフェスティバルに応募する機会があるかもしれません。

 最後に、『イノセンス』について一言。あまり深く考えすぎると疲れる映画になってしまうかもしれません。ですので、あまり難しく考えずに『イノセンス』の世界を楽しんでください。映像と音響の魅力を存分に味わっていただければ、きっと素晴らしい時間を過ごせると思います。以上です。

■オープニング作品『イノセンス』について

 士郎正宗の漫画及びそれを原作とするアニメ『攻殻機動隊』シリーズの2作目。前作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の最後で主人公の草薙素子(CV:田中敦子)が姿を消し、残されたバトーを主人公にした物語。人とサイボーグ(機械化人間)、ロボット(人形)が共存する、2032年の日本。魂が希薄になった時代。ある日、少女型の愛玩用ロボットが暴走を起こし、所有者を惨殺する事件が発生。「人間のために作られたはずのロボットがなぜ、人間を襲ったのか」。バトーは、相棒のトグサと共に捜査に向かう。電脳ネットワークを駆使して、自分の「脳」を攻撃する“謎のハッカー”の妨害に苦しみながら、事件の真相に近づいていく。

 「第3回新潟国際アニメーション映画祭」は3月15日~20日まで、新潟市中央区の4会場(新潟市民プラザ、新潟日報メディアシップ、映画館のT・ジョイ、シネ・ウインド)で開催中。
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