グローバルで人気のwebtoon、“国産”巻き返しのカギは? マンガ大国の意地をかけ…世界…

(写真左から)森啓氏、小林琢磨氏 (C)oricon ME inc.

【漫画】月間販売金額1.2億の大ヒット、 海外でもドはまりする人続出の『神血の救世主』とは?
■「webtoonは韓国がメジャーリーグ」、国産webtoonの強みとは?
世界市場を席巻するwebtoonが、日本でもいよいよ存在感を増しつつある。この背景には国産webtoonが質量ともに充実してきたことが挙げられる。webtoonの代表格とされる作品は海外の作家によるものが多く、メディア化が話題の『女神降臨』やアニメ化された『俺だけレベルアップな件』などの、ヒットコンテンツの多くが実際に海外の作品だ。
しかしマンガ大国・日本も負けてはいない。大手出版社もwebtoonに参入する一方、国内にもwebtoon制作スタジオが続々と設立。2024年1月に国内での月間販売金額で1.2億円を突破した『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』(以下『神血の救世主』)などのヒット作が誕生している。
『神血の救世主』を手掛けるwebtoon制作スタジオ「Studio No.9」を運営する株式会社ナンバーナインの代表取締役・小林琢磨氏は「webtoonでは韓国がメジャーリーグ、マンガでは日本がメジャーリーグ」との認識を語る。
「縦スクロール/フルカラーというフォーマットをリスペクトしつつ、日本のマンガの真髄である魅力あるキャラクターやストーリーの奥深さをミックスさせたのが国産webtoonの強みだと考えています。グローバルに親和性の高いフォーマットで、かつ世界でも評価の高い、日本のマンガの要素を併せ持った国産webtoonはグローバルの読者にも確実に響くはず。その前提として、国内できちんとヒットするのはマストだと考えています」(小林氏)
■いまだ“論争”も? 横読みのマンガとwebtoonは「ラーメンと蕎麦くらい違う」
『神血の救世主』の国内ヒットは前述の通り。しかしマンガ大国ゆえの反発か、日本のユーザーの間では今なお「マンガの縦読み/横読み論争」が起こることもある。この議論に対して、小林氏は「横読みのマンガとwebtoonは似て非なるもの」との見解を語る。
「イラストで構成されるストーリーコンテンツという類似性はありますが、横読みのマンガとwebtoonは例えるならば、同じ麺類でもラーメンと蕎麦くらいの違いがあると思っています。ちなみにアニメもかつては"テレビマンガ"と呼ばれていましたが、今はアニメとマンガを混同する人はいないですよね。同様に、今はwebtoonとマンガの違いが広く認知される過渡期なのかもしれません」(小林氏)
なお、電子コミックサービス「LINEマンガ」においてwebtoonの読者は全世代に広がっているが、「"横読みのマンガ"がシェアを奪われているわけではない」と同サービスを運営するLINE Digital Frontier株式会社の取締役COO・森啓氏は証言する。
「プラットフォーム全体の売上の伸びからも、どちらも『内容次第で面白ければ読む』という方が増えているのを感じます。横読みのマンガとwebtoonを別物と認識して読んでいる方は少ないかもしれませんが、小林さんのおっしゃるようにwebtoonは新しいエンタメ・コンテンツです。どちらを好むかは、それこそラーメンと蕎麦の違いかもしれないですね」(森氏)
横読みのマンガとwebtoonが“似て非なるもの”である論拠の1つに、制作体制の違いがある。横読みのマンガの多くが作家の個人名で発表されるのに対して、webtoonは制作スタジオ名が著者として明記されている作品がめずらしくない。これはwebtoonが分業制で制作されるケースが多いからで、その場合、「Studio No.9」では1つの作品に対して原作やネーム、プロット、着彩など10名以上のメンバーが携わっているという。
「これによって実現できるのが、まず制作現場の働き方改革です。かつwebtoonはデジタルファーストですので、紙のマンガと比べて修正なども即座にできる。分業制とテクノロジーによって、高いクオリティの作画による週刊連載を可能にしているのがwebtoonなんです」(小林氏)
分業制とテクノロジーが活用されたwebtoon、ナンバーナインがこれから目指すものは。
「我々が目指しているのはテンプレートのような作品を量産することではなく、IPとして確立できるwebtoonを生み出すことです。ですから昨今、トレンドである復讐系や不倫系の作品は弊社では現在は制作していません。瞬間風速的に売れても、IP展開という点では"時代と国境を超えるコンテンツ"にはなりにくい、と考えるからです。そもそもwebtoon事業に参入した当初から、弊社ではグローバルを視野に入れていました」(小林氏)
■『DRAGON BALL』『鬼滅の刃』のような世界的IPとなるために、国産webtoonが目指すもの
昨年7月にLINE Digital Frontier株式会社の親会社である米・WEBTOON Entertainmentがナスダック市場に上場するなど、webtoonが世界の成長産業として注目されている。上場セレモニーが行われたNYタイムズスクエアには、『神血の救世主』や『先輩はおとこのこ』などの国産webtoon作品も大々的にディスプレイされた。
それから半年以上がたった今、『神血の救世主』は現在6ヶ国語で配信されており、韓国のwebtoonプラットフォーム「NAVER WEBTOON」では同作が「リアルタイム新作ランキング男性部門」で1位、「リアルタイム新作ランキング全体」で2位を獲得するなどグローバルの読者を掴んでいる。
「連載が開始された当初は、主人公が世界の読者には馴染みのない日本人名のためか苦戦しましたが、ストーリーが進むごとに評価が上がるという現象が見られました。『神血の救世主』が世界の読者にも響いているのは、webtoonというグローバルの親和性に加えて、ストーリーの面白さ、キャラクターの魅力といった、まさしく"日本のマンガの真髄"がふんだんに詰まっているからだと思います」(森氏)
今年1月にはLINE Digital Frontier株式会社と株式会社ナンバーナインは資本業務提携を発表。これにより「Studio No.9」の作品をはじめとする国産webtoonのグローバル展開もさらに加速するだろう。
「国産webtoonが、今後さらに成長するために必要なこと。それはやはりメディアミックスだと思います。『DRAGON BALL』や『鬼滅の刃』『呪術廻戦』(全て集英社)などが世界的IPとなったのも、アニメ化が大きかったはずです。世界ではこれら男性向けバトルファンタジーが、日本発コンテンツとして支持されています。弊社も『神血の救世主』をはじめ、このジャンルに注力することで世界の読者を楽しませたいですね」(小林氏)
米・WEBTOON Entertainment は世界150ヵ国以上で展開されている。これまで"日本のマンガ"が届いていなかった国・地域にも国産webtoonが届くことで、日本のコンテンツ産業の成長エンジンとなることに期待したい。
取材・文/児玉澄子
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