椎名林檎と岡村靖幸、ロバート・グラスパーが同じステージに立つ奇跡――ドラマー・石若駿が躍動…

2025/09/19 19:01 

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椎名林檎、岡村靖幸、ロバート・グラスパーら豪華ミュージシャンが集結『JAZZ NOT ONLY JAZZ II』が終了

 18日、ドラマーの石若駿率いる次世代の実力派バンドが、豪華アーティストと一夜限りのスペシャルセッションを行うライブイベントの第2弾『JAZZ NOT ONLY JAZZ II』が、東京国際フォーラム ホールAで開催された。

【ライブ写真多数】出演者全員でステージに立ったアンコールの模様ほか

 東京・NHKホールでの初開催となった昨年は、上原ひろみをはじめとした多彩なラインナップが大きな話題となり、19日からは劇場版として甦り、全国の映画館で上映が開始されている。

 今年は会場の規模が拡大し、日本のみならず海外からグラミー賞受賞アーティストのロバート・グラスパーも参加。さらにイマーシブ音響システム「d&b Soundscape」を採用し、より没入感のある音楽体験を実現するなど、昨年以上に濃密な一夜となった。

 昨年同様、音楽評論家の柳樂光隆がオープニングDJを務め、開演時刻を過ぎると、昨年はラフなTシャツ姿だった石若がフォーマルなスタイルに衣装チェンジして登場。西田修大(ギター)、細井徳太郎(ギター)、マーティ・ホロベック(ベース)、松丸契(サックス)、山田丈造(トランペット)、渡辺翔太(ピアノ)によるThe Shun Ishiwaka Septetとともにステージに立った。ライブは、昨年の「A Love Supreme」に続き、今年もジョン・コルトレーンの楽曲「Transition」からスタート。細かなパッセージやフリーキーな演奏で、オーディエンスを早くも惹き込んでいった。

 この日の最初のゲストとして登場したのは、唯一昨年に続いて出演したアイナ・ジ・エンド。黒いドレスに身を包んだアイナは「Frail」で妖艶さとキュートさをあわせ持ったパフォーマンスを披露し、「革命道中」では石若によるドラムンベース的なリズムアレンジのもと、観客とのコール&レスポンスを交えながら会場を沸かせた。

 さらに「去年やってすごく楽しくて、もう一回今年もやりたくて」という話から始まったのは「私の真心」。アイナは裸足になって情感たっぷりに歌い始めると、途中からこの曲の作詞・作曲を手がけた岡村靖幸が登場。2人が掛け合いで歌い、松丸の艶やかなサックスや西田のエモーショナルなギターがその熱量を後押し。終盤にはアイナがバレリーナのようにステージを舞い踊り、この日最初のクライマックスを生み出した。

 石若とはライブ初共演という岡村は、名作『家庭教師』に収録された「祈りの季節」を披露。いつもどおりキレのあるステップでステージを掌握すると、続く「Lion Heart」では、山田のトランペットがムーディーな空気感を演出した。

 「Lion Heart」について石若は、「岡村さんとジャズの話をして、『Round About Midnight』が好きだと聞いて。僕もマイルス・デイヴィスのバージョンが好きなんですけど、その雰囲気でアレンジしました」と裏話を披露。そしてもう一曲、「ハレンチ」ではイントロからオーディエンスが一斉に立ち上がり、ファンキーな歌声と演奏で場内は一気にヒートアップ。岡村はステージを縦横無尽に動きながら「カモン!」と叫び、キレキレのダンスでさらなる盛り上がりを見せた。

 ここで、体調不良により出演キャンセルとなったトランぺッター・日野皓正に触れ、石若が「僕がジャズの道に行くきっかけとなった人」と日野とのエピソードを紹介。Septetのみで披露されたのは、日野の「Still Be bop」。札幌で小学生の頃から石若とともに音を鳴らしてきたという山田のトランペットをフィーチャーし、後半では西田と細井がスリリングなギターソロのバトルを展開。中盤のハイライトとなった。

 石若を除くメンバーが一度退場し、グランドピアノが中央に運ばれると、次のゲスト・中村佳穂が登場。10年来の付き合いだという同い年の2人が飾らないトークを交わしたあと、中村がピアノを弾きながら即興で石若との思い出を歌にのせ、「駿のことを思いながら書いた曲」という「さよならクレール」をデュオ編成で披露。さらに「忘れっぽい天使」も即興に近いスタイルで歌詞を紡ぎ、美しい歌声と自由な表現力でミュージシャンシップを存分に発揮した。

 Septetのメンバーが再び合流すると、KID FRESINOが登場して共演。中村はそのままハンドマイクで「MIU」を伸びやかに歌い上げ、音と戯れるような喜びにあふれたステージを見せた。

 続けてKID FRESINOが再登場。プログレッシブなリズムに巧みにフロウを乗せた「Coincidence」で圧巻のパフォーマンスを披露。石若と西田は彼のバンドメンバーでもあり、鉄壁のグルーヴを響かせた。さらに、石若のリーダーバンド・Answer to Rememberの楽曲にKID FRESINOが参加した「RUN」では、変拍子のアグレッシブなリズムに乗せたスリリングなラップと演奏で観客を魅了した。

 「ライブでやるのは初めての曲」という紹介とともに始まったのは、「鶏と蛇と豚 ~Gate of Living~」。ここで、着物に笠という装いの椎名林檎が登場。その存在感はやはり圧巻。KID FRESINOとのコラボも鮮烈で、続く東京事変の「能動的三分間」では、椎名が笠を投げ捨てるパフォーマンスに観客から大歓声が沸き起こった。

 近年は椎名のバンドにも石若が参加しているが、2人の邂逅(かいこう)を象徴する最後の曲は「丸の内サディスティック」。東京国際フォーラムの所在地・丸の内にちなんだこの選曲は、英語詞の「EXPO Ver.」で披露され、ジャジィな演奏も相まって、格別な雰囲気を醸し出した。

 ここで短い転換を挟み、いよいよロバート・グラスパーが登場。まずはベース、ドラム、DJとの4人編成で「Find You」を演奏。ジャンルの垣根を越える新たなジャズの先駆者としての存在感を見せつけた。

 続いて、Tシャツ姿に着替えた石若が登場し、グラスパーと固く握手を交わすと、ツインドラム編成で「Rise and Shine」を披露。曲の後半では、グラスパーのバンドの名手ジャスティン・タイソンと石若が白熱のセッションを展開。まるで会話を交わすように繰り出されるドラムソロに、それぞれの個性が鮮やかに映し出され、胸踊るひとときとなった。DJがサンプラーで「音楽は人生、音楽はアート」と日本語メッセージを伝えたのも、心に残る演出だった。

 さらに、グラスパーと石若にマーティが加わり、ピアノトリオで「Jelly’s Da Beener」を演奏。グラスパーのピアノソロをたっぷりと味わうことができ、演奏を終えるとグラスパーと石若が抱き合い、本編は大歓声のうちに幕を下ろした。

 アンコールでは、石若が「ジャズをやり始めた頃からずっと聴いてた人と一緒に演奏できる日が来るなんて。当時の自分に教えてあげたい」と語り、この日出演した全ゲストがステージに集結。ラストは椎名林檎の「長く短い祭 ~In Summer, Night~」で大団円。再びオーディエンスが総立ちとなり、椎名から始まる豪華なマイクリレーに酔いしれた。そこにグラスパーのピアノソロが加わるという奇跡の光景は、稀有な才能と行動力をもつ石若だからこそ実現できたものだったに違いない。

 今回のライブの模様は、11月16日にWOWOWにて放送・配信される。WOWOWオンデマンドでは1ヶ月のアーカイブ配信が実施される。
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