堅い食感に発売当初は「売れない」と反対…30周年を迎えた『じゃがりこ』が定番で居続けられた…
じゃがりこ30周年記念パッケージ(画像提供:カルビー)

【写真)いくつ食べたことある?ご当地じゃがりこ
■当初のターゲットは女子高生、携帯性に優れたカップ包装も着想
カルビーの人気スナック菓子『じゃがりこ』が1995年10月の発売から30周年を迎えた。今や不動の定番スナックとして老若男女に愛される『じゃがりこ』だが、開発当初のターゲットはルーズソックスやじゃら付け、デコケータイなど数々の平成トレンドを生み出していた女子高生だったという。
「当時、当社には『女子高生のポテトチップス離れが進んでいるのではないか?』という危機感がありました。そこでこの世代のニーズを調査したところ、当社の主力商品であるポテトチップスには『スクールバッグに入れて持ち運びづらい』『友だちとシェアしにくい』『手が汚れる』といった弱点があることがわかったのです」(カルビー じゃがりこ担当 谷澤渓介さん/以下同)
街をアクティブに闊歩していた女子高生たちがスナック菓子に求めているものを追求して生まれたのが、携帯性に優れたカップ包装や、つまみやすいスティック形状といった「屋外型スナック菓子」というコンセプトだった。
「マッシュした生のじゃがいも100%にフレーバーを練り込んで揚げる製法も、味わいをしっかり出しつつ、スティックに一定以上の塩をかけすぎない(=手を汚さない)ための工夫でした。さらにこの製法は従来のスナック菓子にはなかった独特の新食感も生み出すこととなりました」
■堅さへの難色も「日本にはおせんべい文化がある!」
やや堅めの心地よい歯触りは『じゃがりこ』の最大の魅力であり特徴。ところが当時のスナック菓子はサクッと軽い食感が常識だっただけに、社内では「こんな堅いスナック菓子は売れない」と大不評だったという。
「それでも初代の開発担当者の『日本にはおせんべい文化もあるのだから、この程度の硬さなら受け入れられるはず』という思いのもと、コンビニの少数店舗からスタートしたテスト販売は大好評。晴れて全国発売に至りました。常識に囚われず、信念を貫くことでヒットを生み出したこのエピソードは歴代開発者にも受け継がれています」
定番商品だけでなく、期間限定や地域商品など豊富なフレーバーで楽しませてくれる『じゃがりこ』。2016年11月発売の「塩とごま油味」で通算100品目を迎えて以降も、チャレンジングなフレーバーが続々と登場している。
「個人的に印象に残っているのは、2014年に発売した『抹茶クリーム味』です。『じゃがりこ』史上初のスイーツとして挑戦したフレーバーだったのですが、あえなく撃沈しました(苦笑)。パクチーブームに乗って2017年に発売した『パクチー味』もパクチーファンには好評をいただけたものの、売り上げとしては厳しかったです」
もちろん売り上げは重要だが、それ以上に『じゃがりこ』が大切にしているのが「楽しさ」だと谷澤さんは語る。
「本来、『じゃがりこ』は友だちとシェアするなど、楽しいシーンを想定して開発されたスナック菓子です。斬新すぎるフレーバーもその場を盛り上げる話題の1つになっていたら、その役割は果たせていたのではないかと思っています」
■外出自粛のコロナ禍が最大のピンチに…貫き通す「手が汚れにくいこと」の価値
そんなコミュニケーションツールとしての存在価値も持つ『じゃがりこ』にとって、30年の歴史で最大のピンチはコロナ禍だったと谷澤さんは振り返る。
「外出自粛ムードは、"屋外型スナック菓子"というコンセプトを持つ『じゃがりこ』にとって大打撃でした。売り上げも落ち込む中、『じゃがりこの価値とは何か?』に改めて向き合った時期でもありました」
この時期には真っ黒な見た目でインパクト大の「黒トリュフ塩味」や、女子高生と共同で開発した「キムチ×韓国のり風味」など、それまで以上に挑戦的な商品が続々と誕生した。さらに現在では定番商品となった「じゃがりこ細いやつ」が生まれたのもこの時期だ。
「お客さまと一緒に育てたいという思いから人気投票を経て正式発売に至った商品で、『じゃがりこ細いやつ(仮称)』というテスト販売当時の商品名も話題となりました。その後、商品名の募集も行ったのですが、圧倒的に多かった『細いやつがいい』という声からこの名前になったという経緯があります」
サイズからフレーバーまで、30年の歴史を通して多種多様な商品展開をしてきた『じゃがりこ』だが、すべての商品に共通するのが「手が汚れにくい」ことだ。
「現代のライフスタイルには30年前以上にスナック菓子の"ながら食べシーン"が増えています。スマホを操作しながら、パソコンで作業しながら、ゲームを楽しみながら、手を汚さずに食べられる需要はますます高まっていると感じますし、これからも『じゃがりこ』の大切な価値として守り続けたいと思っています」
■ユーザー発のアレンジレシピでスナック菓子の枠超えも「コミュニケーションツールとしての価値を大切に」
新商品が続々と登場するスナック菓子業界において、息長く愛される商品はほんの一握りだ。そうした中、『かっぱえびせん』(1964年発売)、『サッポロポテト』(1972年発売)、『カルビーポテトチップス』(1975年発売)、そして『じゃがりこ』と数々の定番ヒットを生んできた同社。そこにはあるエコな共通項があった。
「それは“未利用資源の有効活用”です。『かっぱえびせん』は全国的には食べられていなかった瀬戸内海の小エビを活用したものでした。また『サッポロポテト』や『カルビーポテトチップス』は、主にデンプン用に消費されていた北海道のジャガイモをおいしいスナック菓子にするという発想から生まれました。さらにその規格に合わないジャガイモを茹でてマッシュし、成型して揚げたのが『じゃがりこ』です」
その中でも『じゃがりこ』がそのほかのスナック菓子とは違い、異彩を放っていたのがアレンジレシピ。ユーザー発で続々と生まれ、ネットを通じてシェアされていく現象が生まれた。特にイチから作るのが面倒なポテトサラダが「じゃがりこを耐熱容器に移し、お湯を注ぐだけでできる」という発想は大バズり。今や定番レシピになったと言っても過言ではないが、自社商品をイジられることについてカルビー側はどう思っているのだろうか。
「もともと『じゃがりこ』はコミュニケーションの活性化を目的に開発されたスナック菓子。お客さま自身に楽しんでいただいていることが、私たちは何よりもうれしいです」
今年9月には『じゃがりこ』ブランド初のチルド包装惣菜『じゃがりこ サラダ味のポテトサラダ』が新発売。さらに、今後は冷凍食品事業に本格参入することが発表されている。そのキーとなる商品として、現在はカルビーのアンテナショップ限定で取り扱っている『じゃがりこ』ブランド発祥のホットスナック「ポテりこ」の全国流通も目指しているとのこと。ユーザー発のレシピアイデアが与えた影響はもとより、スナック菓子を超えた『じゃがりこ』の可能性は目覚ましい。
「今後もさまざまな挑戦をしていきたいと考えていますが、40周年、50周年に向かっていく上ではやはり原点であるコミュニケーションツールとしての価値を大切にしたいと考えています。近年はプチギフトとしてお菓子を贈り合うカルチャーが学生たちの間で定着していますが、その気持ちをより盛り上げるためにAR技術を活用してメッセージを贈るサービスを展開したこともありました。今後も卒業・入学シーズンを中心に、『じゃがりこ』を通して友情を温める仕掛けを提供していきたいと思います」
平成時代に青春を送った人にとって、『じゃがりこ』と共に蘇ってくる思い出もたくさんあるはずだ。そんなユーザーとの関係性は令和の今も変わらない。これからも末長く愛され続けるだろう『じゃがりこ』のさらなる発展に期待したいところだ。
(取材・文/児玉澄子)
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