機能性より“情緒”の時代? ギリシャヨーグルト「濃厚」ブームが定着した背景

2026/03/05 09:10 

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水切りされた、ギリシャヨーグルトのイメージ

 プロテインブームや水切りヨーグルトのトレンドが高まり、ギリシャ・高たんぱくヨーグルト市場が急成長、21年比147%の拡大を見せている。日本初のギリシャヨーグルトとして2011年に登場した『パルテノ』は、濃厚でクリーミーな“水切り製法”を軸に、カップヨーグルトの市場に新カテゴリーを生み出した。ヨーグルトの専門家・ヨーグルトマニアの向井智香さんは、同商品の発売以降ヨーグルトの世界に引き込まれ、衝撃を受けたという。カップヨーグルトにまつわる近年のトレンドについて話を聞いた。

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■機能性ヨーグルト訴求が続いたあとの”逆張り”「情緒を打ち出した商品だった」

 ヨーグルトが日本に入ってきて約110年、プレーンヨーグルトが出てきて約50年、機能性ヨーグルトが出て約30年、ギリシャヨーグルトが出て約15年と、これまでヨーグルト市場には様々な変遷があった。「日本に入ってきてからのヨーグルトの歴史は意外に短い」と向井さん。

「プレーンが出てしばらくは、ヨーグルトは作れば売れるような需要がある状態だったと思いますが、機能性が出てきたあたりで、“誰に向けての商品なのか”ターゲティングをしっかりしていく展開に変わってきたと感じます。ここ10~15年は、機能性や高たんぱく質、デザート系などジャンルが分かれ、ターゲッティングがかなり細分化されてきたフェーズだと思います」という。こうした一連の流れの中で、ギリシャヨーグルトの『パルテノ』が登場したことはすごく革新的なことだったと証言する。

「2000年代に入ってから、免疫などの“機能性”を訴求する商品は流行っていたんですよね。機能性、機能性、機能性…と続いてきた中で、急に2011年に『パルテノ』が”情緒”を訴えかけるかたちでやって来たので、かなり驚いたのを覚えています。たんぱく質が摂れるという機能性の側面もありますが、ギリシャの伝統的な水切り製法を踏襲していることやミルクの濃さを大切にしているミルクブランディングや伝統ブランディングを打ち出した商品だったと思います」

■SNSでバズレシピ、韓国発のトレンドから”濃厚デザート”としての立ち位置も担う

 発売当時の2011年は震災の年でもあり、“日々の健康を守る”食品への意識が強まった時期ともいえる。重視されていたのは“健康志向”で、乳酸菌・ビフィズス菌といった菌名や便通改善、免疫サポートといったキーワードが立っていた。

 ヨーグルトは「攻めの商品」ではなく、「守りの健康食品」という位置付けだった。「ヨーグルトにおける“ミルクの濃さ”、たんぱく質をヨーグルトで補うという考えも根付いていなかった時代でした。ギリシャヨーグルトの『パルテノ』をきっかけに、人々の目がミルクの栄養素や濃さ、味わいに向きやすくなったと言えるんじゃないでしょうか」。

 実際に、現在のヨーグルトは“濃厚”が一つのキーワードとなっている。韓国発のトレンドも相まって、ギリシャヨーグルトはクリームチーズのような“濃厚なデザート”の立ち位置を確立。SNSでも水切りヨーグルトを作るバズレシピが生まれた。
一方で「ギリシャヨーグルト」を謳った商品は数多いが、ギリシャの伝統製法に則って、水切りをしてから充填しているヨーグルトは数少ない現状がある。ここが課題になると向井さん。

「ギリシャヨーグルト、ギリシャスタイルという商品はたくさん出てきていますが、原料にたんぱく質を添加しているのみで、“水切り”という伝統製法に則って作られていない商品が多いのが現状です。国の名前を掲げているからには、伝統に則ってリスペクトを示すべきだと考えます。

 ギリシャ由来の菌を使用したヨーグルトもありますが、国名を使用する理屈は通っているものの、消費者が水切りヨーグルトと間違って購入しかねない商品もあります。“ギリシャヨーグルト”という言葉の法的な定義がないことが混乱を生んでいます」

■「作り手のこだわりや思い、ストーリー」が新たな価値観に

 ヨーグルトの情報を発信していく上で、様々な取り組みをしている向井さん。生乳を生産する酪農家からメーカーの工場まで取材をするなかで、意外にもヨーグルトの定義があいまいなことにも気づいたという。「ヨーグルトは明確な定義付けがされておらず、「発酵乳」と定義された、牛乳や乳製品を乳酸菌や酵母で発酵させた製品であるという定義しかない」と向井さん。

「本来は動物乳で作らないとヨーグルトではないのですが、市場には豆乳ヨーグルトやアーモンドヨーグルトもありますし、ヨーグルトという言葉自体がすごく曖昧。言葉がまだ伝わりきってない部分があるので、生活者の皆さんがヨーグルトのジャンル、定義、選び方などをもっと知っている状態まで連れていくことができたらと考えています。私のような第三者が作り手の皆さんと消費者さんの間に入って翻訳することで、ヨーグルトの奥深さを伝えられる役割を担えたらいいなと思います」

 市場には様々なヨーグルトがあり、味、栄養、機能性など様々な価値観が出てきた。ヨーグルトの切り口としては“飽和状態”にもあるなかで、これから先は「作り手のこだわりや思い、ストーリー」が新たな価値として捉えられる兆しを感じているという。

「誰がどう作ったのか。これからは、開発者さんのクラフトマンシップにもっと光が当たっていくことが予想されます。そのストーリーやこだわりを知って、『この人・メーカーから買いたい』と行動する。

 機械で充填していても手作業を感じられるような情緒感がある。マニアとしてはそういう部分に惹かれます。開発者さんとお話した時にポロっと聞けたりするエピソードは、当たり前の工程すぎて皆さんも発信されていないのだと思いますが、当たり前とされている中に実はすごい価値が詰まっていると思うので、そこをもっと引っ張り出したいです」

 またヨーグルトの原料の大部分はミルクであるため、「ミルクの価値ももっと見えるようになるといいなと思います」。
「なぜギリシャに水切りヨーグルトがあったかというと、それは貴重な栄養源であるミルクをいかにして長く保存するかと考えた人たちの文化なんです。そうした人たちの想いを私自身も学習して、日本にもそのマインドをうまく広げていきたいと思っています」
ORICON NEWS

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