米国のコメ輸出は「日本の食卓に貢献できる」 グラス駐日米大使寄稿
4月に着任したジョージ・グラス駐日米大使が、米国のコメ輸出に関する見解を毎日新聞に寄稿した。
◇日本人、1日1回コメを口に
駐日米大使として着任しわずか数週間で、日本人の食生活にとってコメがいかに重要かを改めて実感した。昼の弁当、夕食のすし、そして手軽なおにぎりなど、日本人は少なくとも1日1回はコメを口にする。
そのため、この主食の価格が急騰すると、全ての消費者や家庭が影響を受ける。現在、5キロのコメ1袋の価格は昨年の約2倍になっており、日本の消費者は日々の買い物や食事に関して厳しい選択を迫られている。月々の家庭の支出において、食費は最も大きな割合を占める。現在のコメ価格は、日本中で当然のように問題視されている。
米国人もまた、生活必需品の価格が急騰するつらさを身をもって知っている。昨年は鳥インフルエンザの流行により、卵が危機的な高値となった。供給不足を打開するため、米政府は海外に解決策を求め、韓国やトルコなどの生産者から一時的に卵を調達した。すると、驚くほど短期間で供給は安定し、価格はほぼ通常の水準に戻った。この大胆で型破りな発想のおかげで、米国の消費者がさらに厳しい状況に陥るのを防ぐことができたのだ。
これとは対照的に、日本の消費者は数カ月続くコメ価格の上昇に耐えている。備蓄米放出でさえも、一般の消費者の負担軽減には至っていない。残念ながら、国内の生産制限政策、不完全な流通制度、そして保護主義が足かせとなり、消費者とその家計を即時に救済する能力を日本政府は十分に発揮できていない。
このような困難の中、小売業者は消費者の需要に応えるべく全力を尽くしている。例えば、日本最大のスーパーマーケットチェーンであるイオンは、6月6日から全国の店舗でカリフォルニア産の高級米カルローズを販売する。私は5月に大使公邸でイオンの新製品発売イベントを主催し、消費者の食費軽減のため新たなコメの選択肢を提供する同社に賛辞を贈った。
多くの日本人にとって、コメと米国はすぐには結び付かないかもしれない。だが、カリフォルニアでは1世紀以上前からコメが作られている。かつて日本人から栽培技術を学んだ現地の農家は、今や日本の市場が求める厳格な基準を満たす、高品質な品種の数々を生産するに至っている。しかし、カルローズ米を日本のスーパーで展開するには、依然として高いハードルがある。
カリフォルニアの農家は、生産するコメ1トンあたり約670ドル(約9万7000円)を受け取る。公正な市場価格だ。だが、同じコメが日本の食卓に届く頃には、価格は約5500ドル(約80万円)に跳ね上がる。ひとたび日本に輸入されると、さまざまな料金やコストのため、5キロあたり約3500円もの価格が上乗せされてしまう。日本の消費者には全く何の恩恵も与えない仕組みだ。
◇柔軟でニーズに応じた取引制度必要
日本が抱えるこのコメに関する課題は、柔軟で市場のニーズに応じた取引制度が、今まさに求められていることを浮き彫りにする。改革は、日本の農家の生計を脅かすものでは決してない。オレゴンの農家出身である私は、農業が経済と地域社会の双方にとって、いかに欠かせない存在であるかを肌で感じてきた。夜明け前に起き、天候に関係なく一日中家畜や作物の世話をする暮らしも知っている。覚悟と適応力が求められる厳しい仕事だ。
米国の農家もまた、日本の農家と同じように、自らが耕す大地と育てる命に対し、大きな誇りと責任感を持って向き合っている。生産者が適正な対価を受け取るのが当然であるように、消費者もまた公正な価格を支払うべきなのだ。
昨年米国を襲った鶏卵価格の高騰から、われわれは教訓を得た。食料安全保障が危機にひんした際には、臨機応変な発想と創意工夫、そして友好国からの支援こそが、サプライチェーン(供給網)を守り、店頭に商品を供給し続けるために不可欠なのだ。
われわれには、困難な時に互いを助け合ってきた長い歴史がある。そして、何十年にもわたり世界平和の維持と発展のために連携してきた。日米のコメ農家は今、友人そしてパートナーとして協力し、日本の食卓に貢献できる。これは、両国の揺るぎない絆を示す新たな一例となるはずだ。(寄稿)
◇ジョージ・グラス
米西部オレゴン州生まれ。オレゴン大で理学士号を取得。銀行勤務後、投資銀行を設立し、不動産業にも参入した実業家の出身。第1次トランプ政権(2017~21年)では駐ポルトガル大使を務めた。今年4月8日、米上院で駐日米大使として承認され、同18日に着任した。
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