「今も涙出る」60年経て語り始めた妻 237人犠牲の山野炭鉱事故
福岡県嘉麻市稲築地区にあった山野炭鉱(旧三井山野鉱業所)で1965年6月1日、ガス爆発が発生し、坑内で働いていた237人が犠牲となった。あれから間もなく60年。「今も涙が出てくるんよ」。地元の稲築東義務教育学校の子どもたちの前に、炭鉱作業員の妻で事故の状況を目の当たりにした山下三千子さん(85)が30日、当時のことを初めて語り始めた。
あの日の正午過ぎ。三千子さんは午後から坑内に入る夫一二三(ひふみ)さん(94年に57歳で死去)のお弁当の準備をしていた。上空にヘリコプターがいくつも飛び始め、住んでいた長屋周辺は騒然とした雰囲気に覆われた。「事故だ」。一二三さんは叫んで作業着に着替え、飛び出した。
遺体が次々に運び出され、近くの保育園の床に置かれていったことを覚えている。一二三さんはすすで顔を真っ黒にして帰ってきたが、押し黙っていた。同じ長屋の1人も犠牲になった。「夫が早出の『一番方』だったら死んでいたかもしれない」。三千子さんは振り返る。
事故は、発破作業中に噴き出したメタンガスが坑内に充満して引火して爆発。入坑していた552人のうち一酸化炭素中毒や爆風、やけどで237人が死亡した。戦後の炭坑事故としては、2年前の63年に458人が亡くなった三井三池炭鉱(大牟田市)の炭じん爆発事故に次ぐ大惨事となった。引火の原因は今も判然としないまま。ただ、会社側がガスを坑道の外に出す措置を怠るなど、後に保安対策上の大きな過失が指摘された事故だった。
73年の閉山まで働いた一二三さんと、事故について話すことはなかった。一二三さんは晩酌を欠かさず、決まって焼酎を1合飲んだ。「何も言わなかったが、お酒を飲むといつもしんみりして。生き残った後ろめたさがあったのかもしれない」
三千子さんは今回、地元の公民館からの依頼を受け、初めて稲築東義務教育学校6年生59人の前で語ることにした。当時の記憶はだんだん薄れつつある。だからこそ思う。「事故のことを知っている人は、もう誰もいなくなった。今度(話すの)は私の順番」
三千子さんは今も事故当時と変わらぬ長屋に住む。「人、人、人」であふれかえった往年の「ヤマ」の風景はもうない。散歩に出かける日は必ず、自宅近くの公園の急な階段を上り、高台に設置された事故の慰霊碑に立ち寄る。「今の私たちがいるのは、あの日、事故の犠牲になった人たちがあってこそ。本当は前みたいに毎日お参りして、手を合わせたいのよ」。三千子さんは弱くなった足をさすりながら、子どもたちに語りかけた。【出来祥寿】
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