台湾で相次ぐ高齢ドライバーの車暴走 中学生ら犠牲の事故も

2025/05/30 08:45 

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 台湾でここ数週間の間に高齢者の車が暴走した人身事故が相次ぎ、社会に衝撃を与えている。5月19日には、下校中の中学生ら3人が高齢ドライバーの車両にはねられ死亡する事故が起きた。もともと人口密度が高いこともあって台湾には「歩行者地獄」という言葉があるほど交通事故が多い。直近の事故などを受けて高齢ドライバーの事故対策を求める声も高まっており、政府は免許制度の見直しに乗り出している。

 5月19日午後4時ごろ、台湾北部・新北市三峡区の交差点で、近くの男性(78)の乗用車が歩いて横断中だった中学生らを次々にはねた。中学1年の少女2人と40代女性が死亡し、運転者の男性を含む12人が重軽傷を負った。

 事故が起きた交差点は、近くにある小学校の下校時にあたる午後4時から30分間が歩行者優先時間となっており、事故当時は全ての歩行者用信号が青だった。中学生は下校中、女性は子どもを学校に迎えに行く途中だった。警察などによると乗用車は現場から約250メートル北の交差点で信号待ち中に突然バックして、後続車に衝突。その後前進して、スクールゾーンとして車両進入禁止規制時間中だった道路を高速で走行。さらにバイクなどに追突した後、中学生らをはねた。

 近くで工具店を営む陳鎮暉さん(61)は「心肺蘇生ができる人はいませんか」という叫び声で事故に気がついた。駆けつけると、子どもたちら数人が倒れ、バイクの部品やノートが散乱していたという。

 台湾メディアの取材に答えた家族の話によると、運転者の男性に健康上の問題はなく、当日は約80キロ離れた場所から帰宅中だったという。警察は男性の回復を待って事情を聴く。

 現場には多くの人が追悼に訪れ、臨時に設置された大型テントの下は供えられた花やぬいぐるみ、菓子であふれた。会場の壁には「こんな交通環境でごめんなさい」「安らかに眠ってください」といったメッセージが多数張られた。

 23日には台北市中正区で78歳男性の車が赤信号を無視して交差点に突っ込み、歩行者やバスなどに次々に衝突して計8人が重軽傷を負った。総統府から約300メートルの繁華街で、防犯カメラには暴走車から慌てて逃げる多くの歩行者の姿が映っていた。

 台湾の2024年の交通事故死者は2950人で人口当たりでは日本の約6倍にのぼり、「歩行者地獄」との言葉が頻繁に使われている。一連の事故を受けて、高齢者をはじめとする運転リスクの高いドライバーの安全対策を求める声が上がっている。新北市の事故現場で献花した徐葉光さん(42)は「高齢者全ての運転に問題があるわけではないが、反応速度の衰えは明らかだ。子どもが安心して歩ける道になってほしい」と話した。

 台湾の中央通信社は19日の事故を受けた報道の中で、19年に東京・池袋で当時87歳の運転手が車を暴走させ、母娘2人が犠牲になった事故を紹介。日本が認知機能検査などの対策を進めていると説明した。

 台湾の高齢ドライバーは25年の183万人から35年には272万人に増える見込み。現在は75歳になると3年ごとに免許更新する必要があるが、交通部(交通省)は対象年齢を70歳に引き下げ、過去に人身事故を起こしたドライバーには特別の訓練を義務づけるなどの法改正を進めている。【新北市(台湾北部)で林哲平】

毎日新聞

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