タイ、カンボジア国境での衝突 事態収拾せず混乱 死者計15人に

2025/07/25 20:38 

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 タイとカンボジアの国境紛争は25日も両軍の交戦が続いた。タイ政府は新たに民間人2人の死亡を発表したほか、カンボジア側でも民間人1人が死亡したと伝えられ、24日以降の死者は計15人に達した。タイ側で国境地帯の住人13万人以上が避難するなど混乱が広がる一方、事態収拾に向けた協議は進んでいない。

 25日未明から国境付近の複数箇所で衝突が起きている模様で、タイ外務省報道官は「カンボジアが始めた紛争で人命が奪われた。決して受け入れられない」と述べた。カンボジア国防省も「タイ軍がクラスター弾を使用している」と非難している。

 タイ政府によると住民13万人以上が既に避難し、複数の病院から入院患者らを避難所などに移した。タイ側の死者は計14人で、負傷者は50人近くに上るという。カンボジア政府は死傷者の数を公表していないが、AP通信は地元当局者の話として、民間人1人が死亡したと報じた。

 24日の衝突の詳細も次第に明らかになっている。タイ側の説明によると、同日午前8時(日本時間同10時)過ぎに東北部スリン県で最初の衝突が起きた。双方が領有権を主張する「タムアントム寺院」周辺にあるタイ軍の拠点に向けて、カンボジア側が先に砲撃したと主張している。

 衝突は国境沿いの隣県にも広がり、カンボジア側からのロケット砲弾で民家や病院、ガソリンスタンドなどが被害を受けたという。タイ軍はF16戦闘機を出動させてカンボジア軍の拠点を攻撃した。

 カンボジア側の主張はタイ側と真っ向から食い違っており、フン・マネット首相は「軍事侵略だ」として強く非難する。政府は24日夜に国境地帯にある世界遺産のヒンズー教遺跡「プレアビヒア寺院」周辺がタイ軍の砲撃で構造物損傷などの被害を受けたと発表した。過去にも武力衝突の要因となった係争地の一つで、文化財への攻撃は戦争犯罪に当たると主張した。

 ところが、タイ外務省は遺跡が衝突場所から離れていることを理由に「フェイクニュースだ」と否定した。

 緊張の高まりを受け、プノンペンにあるタイ大使館は、カンボジア在留のタイ人に速やかに出国するよう求めている。一方、フン・マネット氏は交流サイト(SNS)を通じて、国民に国内のタイ企業やタイ人に差別行為をしないよう冷静な対応を呼びかけている。タイからの帰国希望者には支援の用意があると投稿した。

 タイには登録されているだけでも約52万人のカンボジア人労働者がおり、両国にとって欠かせない関係を築いてきたが、双方の国民感情は急激に悪化している。

 国際社会も紛争の拡大を懸念する。東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国マレーシアのアンワル首相は24日夜、フン・マネット氏とタイのプンタン首相代行と電話協議し、即時停戦を呼びかけたと明らかにした。米国務省のピゴット副報道官は24日の記者会見で「激化する暴力に深い懸念を抱いている。平和的な解決を強く求める」と述べた。【バンコク武内彩】

毎日新聞

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