激戦続くウクライナ東部2州 欧州が戒める「ミュンヘン会談」の教訓

2025/09/02 15:09 

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 ロシアのウクライナ侵攻を巡って米国が仲介する和平に向けた交渉が停滞する中、ウクライナ東部2州では両軍の激しい攻防が続いている。露側は侵攻を続ける構えを崩していないが、トランプ米政権の停戦調停を利用し、外交によって2州を割譲させることも模索。欧州のウクライナ支援国は、第二次世界大戦前にナチス・ドイツへの融和政策が結果的に侵攻拡大を招いた「ミュンヘン会談」を教訓として、米国が露側への譲歩に傾く展開を警戒している。

 ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は8月30日、今年3月以降にウクライナ領3500平方キロ以上を占領し、149集落を支配下に置いたと発表した。

 ロシアが割譲を求めるウクライナ東・南部4州については、これまでに東部ルハンスク州の99・7%、ドネツク州の79%、南部ヘルソン州の76%、ザポリージャ州の74%を掌握したと説明した。

 さらにロシア国境を守るための「安全地帯」の設置目的で、ウクライナ北東部スムイ州で210平方キロの領域と13集落を制圧し、東部ハルキウ州でも進軍を続けていると主張。ドネツク州の西側に隣接する東部ドニプロペトロウスク州への攻勢も継続し、これまでに七つの集落を支配下に置いたと発表した。

 これに対し、ウクライナ軍報道官は8月30日、露軍がドニプロペトロウスク州の一部に侵攻したことを認めたうえで「進軍を止めた」と説明。露軍のドネツク州での侵攻も阻止していると発表した。

 米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は8月31日、ロシアが今年3月以降に占領したのは2346平方キロ、130集落と推計し、「露軍の発表には誇張が含まれる」と分析した。

 ISWは露軍の戦果誇張は、自軍の死傷者数の増加に対し、占領地拡大のペースが遅いことを隠蔽(いんぺい)するためだとみている。

 ウクライナ軍が8月30日に発表した推計によると、露軍は25年1~8月にハルキウ、ルハンスク、ドネツクの3州だけで1カ月平均2万6250人、合計約21万人の死傷者を出した。同期間の露軍全体の死傷者数は1カ月平均3万6250人、合計約29万人に上った。

 今後、露軍はドネツク州全域の占領を目指すとみられるが、ウクライナ軍は露軍が包囲を狙う同州ポクロウシクなどの防御を固めており、その北方には「要塞(ようさい)地帯」と呼ばれるスラビャンスク、クラマトルスクなどの軍事拠点が控える。ISWは露軍がドネツク州全域を占領するには、少なくとも約1年半かかると推定。軍事的手段に頼れば、死傷者が大幅に拡大するのは避けられない。

 このため、ロシアは、米国が仲介する和平に向けた協議を利用し、外交的手段で実効支配地域を広げることも模索している。露側は停戦の条件として、まだ占領していない地域を含めたドネツク、ルハンスク両州全域の割譲を求めていると報じられている。ウクライナ側が応じれば、露軍はウクライナ軍の防御が強固な地帯を犠牲を払わずに獲得できることになる。

 ただ、ウクライナ側もこうした思惑は見透かしており、ゼレンスキー大統領はこの案を交渉の選択肢から排除する考えだ。

 欧州のウクライナ支援国は、ドネツク、ルハンスク両州の割譲要求に関して、英仏などが1938年にチェコスロバキアのズデーテン地方のナチス・ドイツへの割譲を認めた「ミュンヘン会談」の融和政策になぞらえて警戒している。

 当時の融和政策はその後のナチスの侵攻拡大を促したと評されている。欧州側はロシアの要求を受け入れていったん停戦しても、結局は露軍の再侵攻を促す「第二のミュンヘン会談」になる可能性があるとみており、交渉の行方に警戒を強めている。【ブリュッセル宮川裕章、モスクワ山衛守剛】

毎日新聞

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