<ファクトチェック>「多国籍企業がパンデミックを引き起こしたうわさ」は根拠不明

2025/07/14 08:00 

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 新型コロナウイルスを巡り、参政党の神谷宗幣代表が参院選の党首討論会で「多国籍企業がパンデミック(感染症の世界的大流行)を引き起こしたということもうわさされている」と発言した。ウイルスについて調査した世界保健機関(WHO)の報告書や日本政府の見解などを検証した結果、この発言は根拠不明だ。

 ◇WHO「ウイルスの起源は未確定」

 神谷氏は、参院選の公示前日の2日に与野党の8党首が参加して開かれた日本記者クラブ主催の討論会で、グローバリズムに反対する意見を述べる中で「多国籍の企業」に言及。「彼ら(多国籍の企業)はいろんなことをやります。パンデミックを引き起こしたということもうわさされています」と述べた。

 討論会は地上波のNHK総合やインターネットで中継された。

 ウイルスの起源を巡っては、WHOの科学諮問団(SAGO)が6月27日に公表した報告書で、必要な情報と科学的なデータは入手できておらず「結論は未確定のままだ」としている。

 報告書は野生動物から人への感染が有力視されるものの、具体的な感染経路や感染源は特定できず決定的ではないと指摘した。

 人為的な操作によってウイルスが作られたとする仮説については科学的証拠が見つかっておらず、他の科学機関の報告でもほとんど支持されていない、と否定的だ。

 ◇トランプ政権が研究所からの流出主張

 一方、WHOからの脱退を表明しているトランプ米政権は4月18日、中国・湖北省武漢のウイルス研究所からの流出説を前面に出したウェブサイトを開設した。

 これを受け、感染症の危機管理も担当する赤沢亮正経済再生担当相は同月22日の記者会見で「ウイルスの起源については諸説ございます。現在も国際的な結論は得られていないと承知しておりますが、WHOを中心に科学的な調査が継続していると承知しております」と説明した。

 ウイルスの起源は科学的な特定に至っておらず、多国籍企業がパンデミックを引き起こしたとするうわさの根拠は不明だ。

 ◇神谷氏側が回答「問題提起の文脈」

 毎日新聞は10日、神谷氏に対し、発言についての見解を書面で求めた。神谷氏側は11日に参政党事務局名の書面で回答した。

 書面では、神谷氏の発言について「ウイルスの発生原因を断定する趣旨ではない」と説明。ウイルスの研究所流出説を採用した米政権のサイトに触れ「あくまでそうした見方や懸念が存在することを紹介したうえで、問題提起の文脈で用いられたものです」と訴えた。

 「大手製薬企業と各国政府との不透明な契約」などを例示し「パンデミック下で顕在化した『グローバルな統治構造への懸念』は、世界各国でも議論されています」と主張。「神谷代表の発言は、そうした事態を一部のグローバルアクター(主体)が利用し、結果的に国民生活や国家主権に強い影響を及ぼした可能性があるのではないかという構造的問題への警鐘です」と記した。

 参政党は11日、毎日新聞に回答した書面とほぼ同じ内容をホームページに公開した。【安部志帆子、田中裕之】

 ◇神谷氏の発言全文

 参政党の神谷宗幣代表は2日の日本記者クラブ主催の党首討論会の冒頭で、司会者から「一番訴えたいこと」の説明を求められた際、「日本人ファースト」と書いたボードを掲げ、以下のように発言した。

 参政党は日本人ファ-ストという言葉でまとめさせていただいております。我々は国民の暮らしを守りですね、希望と夢を持てる日本を取り戻したいというふうに考えています。

 そのためには経済の力を取り戻すことが大事ですけれども、この30年の経済、停滞している背景には、グローバリズムというものがあると思います。多国籍の企業が国境を超えて規制を緩和し、自分たちのところにお金を集める。

 そうすると各国の中間層が没落し貧困化していく、これ世界中で起きている流れです。今世界ではそういったものと闘う政党がたくさん出ていますので、参政党は日本で、その位置をしっかりと占めていきたいというふうに考えています。

 彼らはいろんなことをやります。パンデミックを引き起こしたということもうわさされていますし、戦争を仕掛けるのも軍需産業です。こういったことが今世界中で問題になっている。

 ですから、そういったビジネス目的での、良からぬ行動にですね、しっかり政治がノーを言う、それが非常に大事だと思います。そして国内では減税と積極財政をしっかりやって、移民や外国人に頼らない、そういった国家運営を参政党が中心に、皆さんに提言していきたい、そのように考えています。

 ◇ファクトチェックの判定基準

 ファクトチェックは特定の主義主張や党派などを擁護、批判することが目的ではありません。社会に広がっている情報が事実かどうか調べ、正確な情報を読者に伝えるのが目的です。

 これは国際ファクトチェックネットワーク(米国、IFCN)が掲げる国際的な原則「非党派性・公正性」に基づいています。

 記事はNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに基づき、チェック対象の情報について表の通りの基準で真偽を判定(レーティング)しています。

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