「自分で読める幸せ」東京で点字おみくじ登場へ 中国人留学生が発案
点字がフランスで考案されてから200年となる今年、目の病気に御利益があるとされる東京都中野区の新井薬師梅照院で、点字のおみくじがお目見えする。日本のおみくじ文化に魅了された中国人留学生の女性が提案し、区視覚障害者福祉協会や点訳ボランティアグループが協力しながら、3月におみくじを引けるよう目指して準備を進めている。点字版は珍しく、視覚障害のある人もおみくじを自分で読む楽しみを体験できるようになる。
都内在住の陳果(ちんか)さん(26)は2023年春に中国から来日し、現在は日大大学院芸術学研究科で学んでいる。
その5年前、家族と一緒に台東区の浅草寺を観光で訪れた時に初めて日本のおみくじを引き、多くの人がおみくじを楽しんでいる光景に興味を持った。中国にもおみくじはあるものの、日本には外国語版があるなどより幅広い層に浸透していると感じた。
23年の来日後、大学院を目指して勉強に励んでいた頃に引いたおみくじには「前半は苦しいけれど、後で結果が出る」という内容が書いてあり、それを心の支えに頑張ることもできた。これまでにさまざまな神社仏閣を訪れ、引いたおみくじは約100枚に上る。
24年春、大学院への進学がかない、日本の地域文化や建築物について学ぼうとしていた陳さんは、目の見えない人はどうやっておみくじを楽しむのだろうという疑問がふと浮かんだ。その頃は点字に触れたこともなく、知人に視覚障害者もいなかったが、点字のおみくじを作りたいと思い立った。
そして、インターネットで視覚障害者団体を検索して、たまたま見つけたのが中野区視覚障害者福祉協会だった。陳さんは協会に連絡を取り、会長の高橋博行さん(57)とさっそく5月に面会して、点字のおみくじのアイデアを伝えた。
視覚障害のある高橋さんもおみくじは引いていた。だが、それは人に読んでもらい内容を理解するものであって、書かれている自分の運勢を自ら読むという発想がなかったため、提案に最初は驚いたという。
提案を受けてから、高橋さんは点字のおみくじについて周囲に尋ねるなどして調べたが、見つからなかった。試しに陳さんの持っていたおみくじをボランティアに点訳してもらった。「おみくじをゆっくり読んだ経験はなく、自分の運勢を自分で読める幸せを感じた。楽しかった」
同様におみくじを読んだ協会の会員の視覚障害者からも「自分の運勢を人に知られずに読める」「読み返せるのがいい」と好評だった。中途失明などで点字を読めない人もいることから、高橋さんはスマートフォンなどで音声を聞くことができる二次元コードを付けることを陳さんに提案し、区内の点訳ボランティアグループと実現に向けて動き出すことにした。
どんな神社仏閣なら受け入れてくれるだろうか。陳さんが最初に当たった神社からは「うちは小さな神社なので」と断られた。そんな中、高橋さんが提案したのが同じ区内にある新井薬師だった。
新井薬師は徳川二代将軍秀忠の子どもの眼病が祈願で寛解したことから、その名が全国に知れ渡った名刹(めいさつ)。江戸だけでなく全国各地から参詣者が訪れ、「目の薬師」と呼ばれるようになった。
陳さんと高橋さんから点字のおみくじの提案を受けた副住職の根本聖道(しょうどう)さん(48)は「共生社会の中で視覚障害者のためにできることを考えてきた」という。
新井薬師では、筒から細長い棒を1本引き出し、棒に付いている番号のおみくじを受け取る振りおみくじの形式を取っている。凶から大吉まで64通りあり、活字では手のひらほどの大きさの紙1枚に収まる。
これが点字版ではB5サイズほどの紙2枚に両面印刷し、4ページのボリュームになる。点字は表音文字のため、点訳すると活字より分量が増えるためで、点字版にも活字のおみくじの全ての内容を省くことなく盛り込んだ。
点訳は中野区の二つのボランティアグループが担当してくれた。ボランティアの一人は「おみくじに書かれている旧仮名遣いをどうするかや、漢字は時代によって読み方が異なるためどうしたらいいかなど点訳が難しかった」と苦労を語る。今後、音声の二次元コードを右上に付けて、2枚をリボンでとじて三つ折りにして完成させる。
陳さんと高橋さんは全国各地の神社仏閣で点字のおみくじを引くことができる未来を思い描く。根本さんも「他の寺や神社に広がれば目の見えない人が楽しむものが増える」と期待を寄せる。
「皆さんの力に感謝したい」と言う陳さんは今回の点字のおみくじを巡る地域ぐるみの取り組みを大学院での研究テーマに据えた。「誰でも平等に日本の伝統文化を楽しめる世の中を実現したい。視覚障害者への理解が進み、よりインクルーシブ(包摂的)な文化体験のモデルを提示したい」と話している。
実は陳さん、点字のおみくじを提案するために根本さんと面会する2日前、新井薬師でおみくじを引いた。「大吉」だった。そこにはこう書かれていた。
友人と協力すればうまくいく、と。【谷本仁美】
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