将棋・王将戦「勝負メシ」は「心奪われない」ものに 料理人の思い

2025/02/01 12:02 

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 東京都立川市で5日から、ALSOK杯第74期王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催、ALSOK特別協賛、囲碁・将棋チャンネル、立飛ホールディングス、森永製菓、名古屋鉄道協賛)の第3局が始まる。対局会場の「オーベルジュ ときと」(立川市錦町1)が棋士に食事を提供する。

 総合プロデューサーの石井義典総料理長(53)は「対局で最高のポテンシャルを出してもらうための料理を用意する」と話す。

 「オーベルジュ ときと」は2023年4月に老舗料亭の跡地にオープンした食房、茶房、宿坊。石井さんは「京都吉兆嵐山店」で副料理長まで務め、スイスのジュネーブ、ニューヨークの各国連大使公邸料理人を経て、ロンドンで懐石料理店「UMU」の総料理長を務めた。

 ロンドンでは、漁船にまで乗り込んで素材の良さを追求。漁師に「活(い)け締(じ)め」の方法を教えることで、最高の素材を使った料理を提供し、ミシュランで二つ星を取るなど高く評価された。活け締めは「フィッシュ・アンド・チップス革命」と呼ばれ、各国に出向いて技術を伝えた。

 さらに多くの人に活け締めを知ってもらおうと、日本人映画監督に依頼して短編映画「たなごころ」を製作。各国の映画祭で短編ドキュメンタリー賞などを受賞している。

 また、「ときと」を運営する立飛ホールディングス(本社・立川市)は、オープンまでの1年半を記録したドキュメンタリー映画「ときと 革新の料理人たち、540日の記録」を製作。石井さんが日本各地の生産地を巡る姿とともに、食と環境の問題にも光を当てる内容になっている。映画は昨年、ポーランドの「ワルシャワ国際映画祭」に、1月には米国の「パームスプリングス国際映画祭」にもノミネートされた。

 「ときと」では、家庭では味わえない最高の食を提供する。しかし、「対局で提供する料理は違う」と石井さんは説明する。棋士は対局中、極度のプレッシャーを受けている。「食事が表に出るのは棋士に失礼だ。対局に集中してもらうため、料理に心を奪われないよう心がけている」と話す。

 当日のメニューも棋士がなじみがあるシンプルなものを考えている。「素材をよりすぐり、最高の技術を結集して、おいしく、心が和むような食事を届けたい」と話す。【矢野純一】

毎日新聞

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