ヒスイ、河川で取らないで 大きな原石の持ち去り、後絶たず 新潟

2025/02/01 13:30 

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 新潟県糸魚川市は観光客にも人気のヒスイの石拾いについて、海岸のみに限定し、市内の河川では取らないよう自粛を求める方針を固めた。市条例ではなく強制力もないが、ヒスイ拾いの新たなマナーとして協力を呼び掛ける。河川で大きな原石を持ち去る人が後を絶たず、持続可能な産地として資源の保全が問題となっていた。市は河川管理者の国や県などと協議した上で最終判断する。【中津川甫】

 市は今春にも開かれる「糸魚川ジオパーク協議会」の総会で提案、賛同を求める。協議会は国や県、地元経済界などで構成され、市が事務局を務める。

 糸魚川周辺はヒスイの国内最大の産地。市内の「小滝川ヒスイ峡」と「青海川ヒスイ峡」は国の天然記念物に指定されており、許可なくヒスイを採取することは禁じられている。この他の河川や海岸については個人がヒスイの小さな石を拾うことは海岸や河川の管理者から許容されてきた。

 県によると、ヒスイ峡以外でヒスイを含む土石などの採取には河川法や海岸法に基づく許可が必要。ただ、河川では採取量が極めて少なく、一時的に採取する場合なら、自由使用の範囲として許可を要しないことも認め、海岸でも同様の扱いとしている。「極めて少ない量」について、定義はないが「旅の思い出として持ち帰る程度」と説明する。

 だが、河川で大きな原石を持ち去ろうとする事案が相次ぎ、近年はSNS(ネット交流サービス)やテレビなどで取り上げられてヒスイ拾いが過熱。さらに大阪・関西万博の期間(4月13日~10月13日)中に会場でヒスイの原石が展示されることから、より注目が集まり、石拾いに来る観光客が増える可能性もある。

 ◇関係機関と協議

 市は、全域が2009年に「世界ジオパーク」に認定され、産地の保全も強く求められているだけに対策を検討。山から流れ出る大きな原石は長い時間をかけて川を下って削られ、海岸に着いた時には小石になる。河川で石を拾われると、海岸に漂着するヒスイが減るため、ヒスイの産地保護の観点から問題があると判断。河川では小さな石も取らないよう呼びかける方向で関係機関と調整している。

 市内の一部河川を管理する国土交通省の高田河川国道事務所や松本砂防事務所(長野県)は「新たなマナーづくりには協力したい」とする。県糸魚川地域振興局は既に市と協議に入っており「国とも一致した対応を取りたい」としている。

 河川でのヒスイ保全や持ち去り防止のため、既に市や県発注の公共工事は、受注業者に掘削工事などでヒスイに似た岩石などを発見した場合は報告し、対応を協議するよう求めている。

 また大きな原石の発見や割られるなどの盗掘被害の通報があった場合は、市のフォッサマグナミュージアムに移転させて保護する「ヒスイレスキュー」にも取り組んでいる。

 ◇海岸では継続

 一方で、市は海岸でも採取を認めないようにした場合、縄文時代から続くヒスイ拾いの文化が消えることを懸念。海にある石は、波にもまれるなどして最終的には砂や泥になり、ヒスイとしての価値もなくなる。その前に、手のひらサイズ以下の石に限って採取を認めることは資源保護につながると判断した。

 海岸でのヒスイ拾いは、産地保護のマナーとして今でも手のひらサイズ以下に限るよう呼び掛けているが、今後も変えない方針だ。手放したくなった時は廃棄などをせずにフォッサマグナミュージアムに寄贈してもらうことで「個人の楽しみから、価値を共有してみんなで楽しむことにつながる」(市幹部)としている。

 糸魚川では河川での大きな原石の持ち去り以外にも、公園で展示している観賞用の巨大な原石を削り取る被害も起きている。市は警察に相談したが被害は後を絶たず、移転を検討中の事例もある。

 フォッサマグナミュージアムの竹之内耕館長は「石拾いのマナーを市民や愛好家ぐるみで定着させ、糸魚川を持続可能なヒスイの産地として未来に残していきたい」と力を込める。

毎日新聞

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