あえて「山頂でご来光」を諦める 富士登山にオフピークの選択肢

2025/03/23 10:15 

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 登山客で混雑する夏場の富士山。その登山道は、深刻な渋滞で知られる。

 一因となっているのが「ご来光登山」だ。日の出の時間を目がけ、一斉に山頂を目指す登山者が多い。

 そんな中、あえて「8合目」でご来光を見るツアーが人気だ。行程を数時間ずらすだけで、快適な登山が楽しめるという。【中嶋真希】

 ◇登山道は大渋滞

 富士山の頂上でご来光を拝むまでの道のりは容易ではない。

 ツアーの多くが、夕方までに7~8合目の山小屋に到着し、仮眠を取る。その後、午後11時から午前0時ごろに山小屋を出る。午前4時ごろまでに山頂を目指し、日の出を見る。

 登山者が同じ時間に山頂へ向かうため、混雑が起きてしまう。十分な休息をとらずに夜通し登る「弾丸登山」も問題視されてきた。

 旅行会社ビーウェーブ(大阪市浪速区)の和田昂之さん(34)は、自身は添乗員としてご来光登山に同行した経験はなかったが、その大変さをうわさで聞いていた。

 「ほとんど寝ないまま、大渋滞の登山道を歩いて山頂を目指さなくてはいけない」「山小屋では標高が高く、いつもと違う環境で眠れない」――。

 何とかできないかと、2021年、8合目にある山小屋「太子館」所属のガイドに聞くと、「8合目でも、山頂と同じようにご来光が見られる」と言われた。

 翌年、ご来光登山に初めて同行した。混雑がひどく、少し歩いては止まりの繰り返しで、自分のペースで登れなかった。

 睡眠時間も短く、体力的につらそうな参加者もいた。うわさ通りの厳しさを痛感した。

 ◇自分のペースで山頂へ

 ピークを避ければ快適に登山できるのではないか。そう考え、ガイドのアドバイスを取り入れたツアーの企画に取り組んだ。

 初開催は、23年8月。7、8合目でご来光を見る2泊3日のツアーを実施した。

 初日は7合目の山小屋に宿泊し、ゆっくり寝てから2日目の朝、山小屋近くで日の出を楽しんで、最高標高地点の剣ケ峰に向かった。

 8合目の山小屋に泊まり、3日目の朝、再び日の出を見た。参加した14人全員が山頂までたどり着き、混雑を避けてご来光を堪能できた。

 好評を受け、24年には1泊2日のツアーも実施した。午前2時ごろに8合目の山小屋を出発し、8合目よりも山頂に近い「本8合目」と呼ばれる場所で圧巻の日の出を見てから山頂を目指す。

 和田さんは「数時間ずらすだけで渋滞が解消され、自分のペースで山頂に向かうことができる」と“オフピーク登山”の効果を実感した。

 ◇本8合目は「北岳より高い」

 今夏もツアーは7~8月に実施する。1泊2日の「本八合目ご来光&富士山登頂ツアー」と、2泊3日の「ゆったり行程の富士登山ツアー」を各4回予定している。

 「本8合目は標高3400メートル。日本で2番目に高い北岳(標高3193メートル)よりも高いです。十分、貴重な美しい景色が見られます」と和田さんは太鼓判を押す。

 富士登山を巡っては、山梨県が混雑解消と安全対策のため、昨年から1人2000円の通行料の徴収を始め、今年は4000円に値上げする。静岡県も足並みをそろえ、今夏から4000円の入山料を課す。

 あえて時間をずらすオフピーク登山も、渋滞解消に一役買いそうだ。

毎日新聞

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