<町へ出よう書を探そう>「本を売ることはリスク」 売らない本屋、目指すのは「駄菓子屋」
本を売らない、貸さない、買い取らない――。そんなモットーを掲げる不思議な本屋さんがあると聞いた。東海道新幹線と東海道線を乗り継ぎ、たどり着いた幹線道路沿いの交差点。静岡県長泉町の通称「マルサン書店出張所」はうわさの通り、独特の温かさに満ちていた。
こぢんまりとした10平方メートルほどの店内。そこかしこに人気キャラクターの各種グッズ、玩具が置かれ、学童クラブのような雰囲気だ。肝心の書棚は2、3段しかないボックス型。そもそも、入り口で靴を脱がなければならない。
「ここはあくまで、『本を手に取る』ための場所。気に入った本があれば、注文してもらいます」。仕掛け人のマルサン書店統括部長、杉山孝さん(51)が説明してくれた。続けて、こんな言葉が飛び出した。「本を売るということはリスクなんです」
マルサン書店は地元きっての老舗。明治時代の1902年、静岡県沼津町(現・沼津市)で「古澤書店」としてスタートした。経営の主力は外商で、店主の出身校である旧制韮山中(現・韮山高)に週1回、「出張店」を構えていたそうだ。
杉山さんが図書館勤務を経て入社したのは、創業100年を迎える2001年。老舗だけに周囲に祝福されたが、次第に危機感を抱くようになる。当時の会社は積極的な拡大路線をとり、最大時は9店舗を展開。ただ運営コストなどから、内実は出店と閉店の繰り返しだった。
10年ほど前から、杉山さんの改革は本格化する。前の仕事の経験を生かし、学校図書館の蔵書を管理するシステム販売を開始。学校を巡回しての出張型「ブックフェア」もスタートさせた。出版社から提供された2000冊以上の見本を持って行き、子供たちに図書館に置いてほしい本を選んでもらう。「言わば原点回帰。店舗は減っても、外商という伝統を大切にしたい」と強調する。
ネットを通じた情報ではなく、直接本に触れる機会を街中でも提供したい。「出張所」はそんな思いから、生花店だった建物の一部を借りて23年7月にオープンさせた。
児童書などの見本を出版社に無償提供してもらい、多いときは600冊ほどが並ぶ。そこで欲しくなった本を注文してもらう方式は、外商と同様に広い売り場がいらず過剰な在庫を抱えない利点がある。
もちろん、それだけが狙いではない。目指したのは、駄菓子屋のように子供たちが集まる場所。子供同士、親子連れなどが訪れて、本選びを楽しむ。スタッフ1人が常駐し、夏場にはかき氷を振る舞うなどのサービスも。地元の学校に図書を納入しており、恩返しの思いもある。
杉山さんは、自身の手で2階部分を改装中。高校生の勉強場所などとしての利用を考えている。老舗の大番頭の挑戦は尽きない。【高橋昌紀】
◇杉山孝さんお勧めの3冊
▽ヤーノシュ「パナマってすてきだな」(あかね書房)
▽堀源一郎・監修「ブラック・ホールの秘密」(小学館)
▽レイモンド・ブリッグズ「風が吹くとき」(あすなろ書房)
◇マルサン書店出張所
静岡県長泉町下土狩455の8 1F北。正式名称は「長泉町下土狩薄原交差点前出張所」。普段開いているのは午後1~5時だが、学校が夏休みの間は午前9時半~午後3時。不定休。詳細はホームページやインスタグラムに掲載。マルサン書店の通常店舗は沼津市など2カ所にある。
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