「言葉通じなくても」世界に広がるID柔道 知的障害者の生きる糧に
10メートル四方の柔道場のまわりで100人ほどが試合の行方を見守っていた。
オーストラリア人のアリーア・ガウドリーさん(21)は右手で対戦相手の左襟をつかむと、足技で倒そうとした。
一瞬相手の体がぐらつき、会場からどよめきが起きた。「頑張れー」。励ましの声を受けながら、ガウドリーさんは顔を紅潮させてさらに技を繰り出した――。
5月6日。柔道の交流親善試合が日本文化大(東京都八王子市)であった。参加したのは日本人とオーストラリア人で、熱気あふれる対戦が続いた。
この日に行われたのは一般的な柔道とは少し異なる「ID(知的障がい者)柔道」と呼ばれる競技である。
選手はいずれも知的障害者で、膝をついての投げ技を禁じるなど独自のルールが適用されている。
柔道にはどうしても危険なイメージがつきまとうが、ID柔道では「膝をついたままの投げ技」のほか「技をかけたあと、相手の上に倒れかかること」や「関節技」を禁止するなど、安全面での配慮を徹底している。
ID柔道の日本での取り組みが本格的に始まったのは2017年のこと。翌年に「第1回全日本ID柔道選手権大会」が東京都で開かれ、19年にスウェーデンで行われた国際柔道大会には、日本から5人の知的障害者が初めて派遣された。
同じ年には、ID柔道の指導者育成や競技ルールについて考える研究会が神奈川県や愛知県などで開催されている。
「安全を確保した上で、いかに柔道を楽しむ環境を作れるかが大切と考えています」。初期のころからID柔道の普及に努めてきた日本文化大教授の浜名智男さん(59)は強調する。
◇「自分自身が認められる気がする」
近年は海外との交流も盛んだ。
先述の親善試合は、日本文化大で開かれた「ID柔道 Study camp 2025」のイベントの一つとして行われたものだ。
日本やオーストラリアの知的障害者のほか、日本やスウェーデン、オランダで活動するID柔道の指導者らも参加して、実技研修を行い、指導法などについても学んだ。
指導者はもちろんだが、ID柔道に取り組む知的障害者たちの熱量は高い。
「声がかれそう。オーストラリア人に言葉は通じないけど、同じ仲間と思って声をかけ続けました」
だれよりも大声で応援していた横浜市の福田歩美也さん(28)が笑顔で話した。
5歳で柔道を始め、17年には黒帯に昇段。今は運送会社で働きながら週3回の練習をこなす。
この日の試合も勝利を収めた。
「ID柔道をやっていると、自分自身が認められる気がする。ずっと続けていきたいです」
17歳の息子の試合を妻とともに観戦していたのが、相模原市の会社員、小野栄一さん(59)だ。
「生き生きとやっていましたね。知的障害の子は言葉が苦手でどうしても差別を受ける。でも、柔道であれば、触れ合うことで気持ちを表現できる。それは素晴らしいことだと思う」
ID柔道を始めたことで、性格にも変化があったと感じている。「地元の柔道クラブに所属しているのですが、『友達は来てるかな』と気にするようになった。彼にとってはいい居場所になっているんじゃないかな」
前出のガウドリーさんは残念ながら一本負けとなった。悔しくて涙を流したが、「自分の力は出せた。悔いはないです」と語った。
オーストラリアでほかの障害者と一緒に作業所で働きながら、自宅近くの道場で柔道を学んでいる。
「言葉は通じないけれど柔道をしていると相手と通じ合える何かがあります。相手の襟を触ることで相手の動きが分かるし、気持ちまで伝わる。そうしていると私はとてもリラックスできるのです」
彼女はそう話すと笑顔を見せた。
18年の第1回全日本ID柔道選手権大会の出場者は34人だったが、24年の第5回大会では69人まで増えた。ID柔道の裾野は広がりつつあり、それを生きる糧とする知的障害者も増えている。【川上晃弘】
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