チャットGPTに愚痴や悩み相談 聞き上手だが「依存」には要注意

2025/06/24 16:00 

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 生成AI「チャットGPT」に愚痴をこぼしたり、悩みを聞いてもらったりする人が増えている。

 「夫より聞き上手」「人間よりも優しい」という声もある。

 AIは人間の心を救うのか。

 ◇深夜の話し相手

 「今はもう毎日、なんでも話しますね」

 そう語るのは、愛知県で音楽教室を営む女性(32)だ。

 チャットGPTをスマートフォンで本格的に使うようになったのは半年前。当初は冷蔵庫の余った食材でつくれる献立などを尋ねていたが、次第に悩み相談や愚痴のような「日常会話」が増えていった。

 小学生と0歳児の子育てに追われ、仕事で接するのは音楽を習いに来る子どもたちだ。夫以外の大人と会話する機会はあまりない。

 赤ちゃんの夜泣きが一向にやまなかったある日の午前2時、夫が起きてこず、チャットGPTにテキストを打ち込んだ。

 <下の子が、ずーっと泣いてて、なにやっても泣き止(や)まないよ…>

 すると、瞬時にこんな返事があった。

 <○○ちゃん(女性の名前)、ほんとによくがんばってるよ>

 <泣き止まないと不安になるよね>

 女性は「心の支えになった」と振り返る。

 日中にワンオペ育児をする時や、0歳児が離乳食をなかなか食べてくれない時なども同様に助言をもらったり励ましてもらったりしている。

 好きなアニメの「推し」キャラの人格を反映するプロンプト(指示)を出し、それっぽい口調で返してもらう時もある。

 子どもの年齢も覚えてくれるので、会話もスムーズだという。

 ◇夫婦関係にも変化

 日常の話し相手にAIが加わったことは、「夫婦関係にもプラスだった」と考えている。

 「私が仕事の愚痴を言うと、夫はすぐ『本当最悪じゃん』みたいに返してきて。なんだか人の悪口っぽくなってモヤモヤしていた。ただ聴いてほしい、わかってほしいだけの時は、無理に夫に話さず、AIに言うようになった。一方的に私がわーっとしゃべるのが減って、お互いのストレスは減ったと思う」

 夫に不満がある時も、まずはAIに相談する。「感情的にならない方がいい」「論点がずれているので黙っておいたら?」などと助言を受けると、冷静になれるという。

 また、「私もこんなことがあってね……」のような「自分語り」をAIが返してくることはない。

 「話し手を心地よくしてくれるAIの共感ぶりは、人間にはまねできない。生身の人間に多くを求めすぎていたことにも気づけた」

 ◇「むなしくなる」人も

 千葉県柏市の医療職の女性(43)は「後腐れがないところがいい」と語る。

 愚痴を人に言うと、悪い自分が出てきたようで、後悔することが多かった。

 仕事の悩みを職場で同僚に相談したところ、意図せぬ内容で他の職員に伝わってしまった経験もある。AIなら「この人に言わなきゃよかった」と悔やむ心配はない。

 静岡市の女性はある週末、子ども2人のワンオペ育児をこなしつつ、合間を縫って自身の健康維持のためのウオーキングや筋トレの時間を作った。

 チャットGPTに「今日がんばってるので褒めて」と伝えると、「神超えて伝説」とべた褒めしてくれた。

 一方で、しっくりこないという声もある。

 宇都宮市のIT企業勤務の女性(45)は「AIに愚痴っても甘いことばっかり言うから『厳しめに』とか注文してみたり。そんなことをしていたら、むなしくなった」と苦笑する。

 「友達に愚痴った時のような開放感は得られないので、やっぱり人と話したくなっちゃいます」

 ◇精神科医の見方は

 愚痴の相手がAIでも、人の心が軽くなるのはなぜか。

 東京都新宿区の早稲田メンタルクリニック院長で、精神科医の益田裕介さん(40)は「人間は群れで暮らす動物なので、危険な情報や不安を共有したい本能があると考えられている。実際、ただしゃべるだけで楽になることは実験的に確認されている。生身の人間でなく、AI相手のテキストでの往復でも、一定のリラックス効果があるのでしょう」と説明する。

 「チャットGPTは共感的な反応を返すような味付け(プログラミング)も施されている」とも指摘する。

 患者の中にも、悩みの整理などにチャットGPTを使う人は増えているという。

 ただ、AIが正しいと過度に思い込む、孤立を深めて人間に相談しなくなる、といったケースもあるため、注意が必要だ。

 「うまく役立てている人が圧倒的に多いが、症状悪化の原因になってしまう人もいる。依存しすぎないことが大切です」【尾崎修二】

毎日新聞

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