静岡・浜松の津波避難タワー、熱中症対策想定せず 警報発令で課題に

2025/08/09 07:45 

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 ロシア・カムチャツカ半島付近で7月30日に起きた大地震で、東日本大震災以来となる津波警報が発令された静岡県内では8000人超が避難した。1000人近くが避難した浜松市で「津波避難タワー」を利用したのは80人余。津波の予想到達時間まで比較的余裕があったことが、タワー避難者が全体の1割にも満たなかった背景にあるとみられるが、猛暑時の避難が想定されていない施設の構造も課題として浮上している。

 津波避難タワーは、津波浸水が予想される際、近くに高台などがない地域の住民らが一時的に避難する施設だ。浜松市内では東日本大震災後、建築基準法を満たしつつ早期に完成させるため、屋根や壁のない「鉄骨造り」で建てられた。震災から3年後の2014年3月までに沿岸部の中央区の舞阪地区など9カ所に設置されている。

 舞阪町舞阪にある「砂町津波避難タワー」は、最も早い13年3月に完成。鉄骨3階建てで、階段で上る避難スペースの高さは10・5メートル。備品保管庫を兼ねたベンチが4基ある以外、体を休める場所はない。他8カ所のタワーも高さが異なる以外は同じ構造で、ベンチ内に何を収容するかを含めそれぞれの地域住民が管理している。

 同市は、30日午前9時40分の警報発令と同時に、舞阪地区の舞阪西町、舞阪砂町、舞阪吹上、弁天島の各地域と、中央区江之島町の計2419世帯5693人に避難指示を出した。避難場所として市と所有者らが事前協定を交わしている「津波避難ビル」など23施設に最も多い時で993人が避難し、そのうちタワー利用は5カ所で計84人(1~31人)だった。

 砂町タワーには88歳と57歳の母娘2人が避難。炎天下での避難を心配した自治会の片山幸一会長(72)がタワー下で一時待機したという。一方、タワーから500メートルほど離れた舞阪中学校には約150人が避難。住民の1人は砂町タワーの完成時に上った経験があり、「タワーよりクーラーのある学校の方が快適」と、いざという時は中学校への避難を決めていたという。

 この日の浜松市の最高気温は34・2度。「タワーでの避難継続は熱中症の危険性が高まる」(危機管理課)として、市は午後3時ごろには、各タワーに職員を派遣し、避難している住民に避難ビルなどへの移動を促した。タワー避難者に熱中症の発症は確認されなかったという。

 片山会長は「地域住民が参加してのタワーを利用した訓練は年2~3回実施し、その存在や意義の周知を図ってきた。寒さ対策で毛布やタオルケットを保管していたが、暑さへの対応が必要と分かったので、役員会で検討したい」としている。

 危機管理課の小林正人課長は「警報発令時に津波到達時間まで1時間以上あるなど時間的余裕があったのでタワーに避難した人が少なかったと思う。南海トラフ巨大地震を含め地震発生から津波到達まで時間がなければ、近くのタワーに避難するしかない住民も多くなるはずだ。何らかの熱中症対策を検討していきたい」と話している。【照山哲史】

毎日新聞

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