アフガン難民、日本語習得に苦戦 経済的困窮も タリバン復権4年

2025/08/28 10:30 

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 「今朝、食べた物を書いてください」

 日本人講師に指名されたアフガニスタン人の女性がホワイトボードに向かう。

 「わたしは けさ ゆでたまごを たべました」

 ゆっくりと平仮名をつづり、笑顔を見せた。

 アフガンでイスラム主義組織タリバンが2021年8月に約20年ぶりに実権を握ってから、4年がたった。

 迫害を恐れる多くの人が国外脱出。出入国在留管理庁によると、22~24年に計486人のアフガン人が日本で難民認定された。

 しかし、日本語が習得できず、経済的に困窮するケースも少なくない。

 アフガン人の女性たちが通う日本語講座を通し、日本で暮らす難民の今を取材した。

 ◇ベビーカー携えて勉強

 「今日は動詞を習います」。講師の日本人女性が語りかけ、生徒の女性たちは真剣なまなざしでノートにメモを取りながら耳を傾けていた。

 アフガンの復興を支援するNPO法人イーグル・アフガン復興協会(東京都新宿区)は23年から月3~4回、千葉明徳短期大学(千葉市)で無料の日本語講座を開いている。毎回15~20人が参加する。

 今月2日の講座では子どもを寝かせたベビーカーを傍らに置いたり、隣に幼い子どもを座らせたりし、子どもをあやしながらスタッフと勉強に励む女性たちの姿もあった。

 この日参加した26歳の女性は、タリバン復権後の22年に隣国パキスタンを経由して日本に来た。

 「タリバン支配下では女性たちには自由がありません。学校で学んだり、自由に移動したり、好きな服を着たりすることもできません」

 来日後に生まれた子どもは2歳と1歳になった。

 「人々が礼儀正しく、ルールに従って規律正しく暮らしている日本が好きです。子どものためにも日本語を学んで自立したい」

 ◇親子でコミュニケーション不全も

 イーグル・アフガン復興協会の理事長を務める江藤セデカさん(67)はアフガンの首都カブールの出身だ。

 江藤さんは日本からの留学生だった克之さんと出会い、1983年に来日して結婚した。娘が4歳のときに克之さんは白血病で亡くなり、江藤さんは日本語を学んで通訳や貿易商などとして働いてきた。

 03年にイーグル・アフガン復興協会を設立し、紛争下のアフガンにベビーカーや衣類などの支援物資を送ってきた。

 そんな中、21年にタリバン暫定政権が発足し、在アフガン日本大使館職員やその家族など800人以上のアフガン人が日本へ避難してきた。

 「言葉が分からない中で子どもを育てるのがどれほど大変なことかよく分かります」と江藤さん。

 子どもたちの学校の先生とのやりとりや、病院への通院や役所の手続きなど、日常生活で日本語が必要な場面は多い。

 また、子どもの方が早く日本語を習得するのに対し、母語しか話せない親とコミュニケーションが十分に取れなくなるケースもある。

 江藤さんは力を込めて語る。

 「深い悩みを親に打ち明けられなくなる子どももいます。子どもの教育のためにも、お母さんが学ぶ場は大切なのです」

 ◇日本語に苦戦し経済的に困窮

 来日後、経済的に困窮するアフガン人家庭は少なくない。

 難民の定住化について研究する千葉大学の小川玲子教授が、日本へ退避した在アフガン日本大使館と国際協力機構(JICA)の職員ら18世帯105人を24年8月に調査したところ、世帯主が正規雇用されているのは50%のみだった。非正規雇用が22%、失業中が22%と不安定な雇用が多かった。

 世帯主の6割近くが大学や大学院卒と高学歴だが、日本での生活では多くの家庭が月額の平均支出が月収を上回っていた。

 小川教授は、就職や進学のハードルになるのが日本語習得だと指摘する。

 「日本語ができないと、社会生活は成り立ちません。子どもたちが家計を助けるために大学進学を諦めて働かざるを得なくなり、貧困と低学歴が連鎖する事態になっています。退避したときには『日本で子どもたちに良い教育を受けさせたい』と考えていたのに、結果的にかなわない状況になっているのです」

 ◇日本語学習の機会確保を

 政府の委託を受けて難民を支援する難民事業本部(RHQ)は、難民認定を受けた人に対して、定住支援プログラムの一環として半年間(夜間コースの場合は1年)の日本語教育を実施している。

 しかし小川教授によると、就労や進学に必要なレベルの日本語能力を身に付けるには不十分であり、家族を養えるだけの職に就けない人が多いという。

 「自治体によっても日本語の学習支援には格差があります。官民や民間団体同士がうまく連携して、オンラインなどで日本語の学習機会を確保する体制を作ることができればいいのではないかと思います」

 日本語講座を実施する江藤さんは「教育機会を作ることは、日本社会にとって良い人材を育てることにもつながります」と強調する。

 講座に参加していた26歳のアフガン人女性は「子どもたちと一緒に日本語を勉強し、日本のために役立てたらと思います」と希望を語った。【川上珠実】

毎日新聞

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