「非体験者」模索する継承 証言引き出す試行錯誤にも注目 戦後80年
終戦から80年がたち、戦時下を生きた人々の思いや当時の空気を伝える難しさが増している。消えゆく声を後世に残そうと模索しているのは当事者やその家族に限らない。戦争を体験していない「非体験者」による継承のあり方を探った。
◇手作り紙芝居で
今夏、東京都江東区にある東京大空襲・戦災資料センターで空襲体験を語り継ぐ「継承者」3人がデビューした。7月にあった公開練習では都内在住の白石哲三さん(87)の体験を語り継ぐ尾辻美枝さん(53)が登壇し、約40人の前で手作りの紙芝居を披露した。
「起きろ起きろ! 空襲だ!」。尾辻さんが声を張り上げる。1945年3月10日未明の東京大空襲。7歳だった白石さんは両親と4人のきょうだいと暮らし、家族は2人1組になって避難した。白石さんは姉と手をつなぎ、後に家族と再会できた。だがその後、避難先の親戚宅などでも立て続けに空襲に遭った。
尾辻さんがこうした場面を語るのを聞いた白石さんは「理路整然としてわかりやすい。体験を引き継いでもらえるのはうれしいし、ほっとした」と喜んだ。
センターは2023年に継承者育成プログラムを始めた。尾辻さんはボランティアとしてセンターの活動に関わっていたことから誘われた。「戦争も知らないのに責任を持てない」といったんは尻込みしたものの、体験者の思いを知り引き受けることに。それから2年以上にわたって当時の避難ルートを実際に歩いたり白石さんと交流を重ねたりする中で、自分なりの戦争体験の伝え方を模索してきた。尾辻さんは「戦争を体験していない私が声高に『平和は大事です』と言っても薄っぺらい。紙芝居を見て、爆弾が落ちたらああなるんだと少しでも想像力を高めてくれたら」と話す。
プログラムの責任者でセンター学芸員の小薗崇明さんは「体験者に寄り添って丹念に話を聞くことに加え、自分の思いをそっと添えることを心がけてもらった」という。これからは継承者の公募も検討している。
◇大学院生「聞き手」に注目
大阪大大学院生の石川勇人さん(26)は体験者から聞き取りをした「聞き手」に着目する。那覇市出身で、祖父母は戦争を知る世代だが、沖縄戦について家ではほとんど語らなかった。
高校3年の時、沖縄にルーツがある海外在住の同世代と交流した際に「沖縄にいるのに沖縄の戦争を知らないの?」と言われたことをきっかけに沖縄国際大に進んで沖縄戦体験者からの聞き取りを始めた。これまでに聞き手を含めて70人ほどから話を聞いた。
「体験者が語ろうとしても言葉にできない体験の重みを聞き手が鮮やかに描いてくれる」。そう感じたのは修士論文の執筆中だった。テーマは教科書検定問題で、慶良間諸島の集団自決を直接知る人に話を聞こうとしたが、なかなか見つからなかった。そこで過去に体験者に聞き取りをした研究者や新聞記者を探して会いに行った。体験者がどう語ったのか、あるいは語れなかったのかを冷静に見つめていた。
印象に残るやりとりがある。男性に比べて女性の証言が多かったので研究者に理由を尋ねた。すると、男性たちが畑仕事などで外に出ている間に近所の女性たちが集まって台所で話を聞かせてくれたのだという。
同じ地域や家族の中に加害者も被害者もいるため、普段おおっぴらに話せないことも話しやすい状況の中では口を開いてくれる。証言を引き出す試行錯誤がうかがえて「はっとさせられた」と石川さんは言う。
今や多くの子どもたちにとって戦争は「おじいちゃんやおばあちゃんから聞く話」ですらなくなっている。石川さんは沖縄戦の記憶の継承について研究しながら平和教育の現場にも足を運ぶ。残された証言だけで戦争を伝えることの難しさを痛感するという。「体験者が一つの証言を残すまでの過程や葛藤も併せて丁寧に伝えないといけない」
自民党の西田昌司参院議員が5月、亡くなった動員学徒らを慰霊する「ひめゆりの塔」(沖縄県糸満市)の展示内容について「歴史の書き換え」と発言した。
石川さんは「また起きたのか」とあきれつつ、非体験者も体験者の声を守り伝えていくことが大切だと改めて感じた。「沖縄戦の歴史認識や記述が問われる事態は過去に幾度も起きた。戦後、沖縄戦がどのように捉えられ、体験者がどんな反応を見せてどう声を上げてきたのか。そうした話を体験者から聞こうとした人の視点や時代背景とともに検証することが大切だ」
石川さんは「継承される声と同時にこぼれ落ちる声がたくさんある。一度立ち止まって振り返る瞬間があってもいい」と話し、今後も体験者の証言とともに聞き取りをした人の証言を集めていくつもりだ。【竹内麻子、椋田佳代】
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