<移民と社会>参政党伸長 人口の2割は外国人「共生の優等生」 大泉町長の困惑

2025/10/28 05:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 宮城県知事選では参政党が支援した候補が現職をあと一歩まで追い詰めた。外国人政策の見直しを進める高市早苗首相も大きな支持を集めている。日本全体で外国人に対する視線が厳しさを増すなか、人口の2割を外国人が占める群馬県大泉町は揺れている。

 きっかけのひとつは7月の参院選だ。同町において、参政党の比例得票数は15・6%で全国平均(12・6%)を上回った。選挙区においても同町内では参政党候補の得票が自民党候補を超えてトップだった。

 参政党の躍進は「外国人とうまく共生している町」という大泉町のイメージを変えうるものだ。

 「予想外の結果でした」

 2013年に就任して以来、外国人との「共生」に力を入れる村山俊明町長(63)は率直に語った。「外国人問題がクローズアップされ、彼らを排除すべきだというイメージ操作があった。住民を不安にさせるものだが、その矛先がうち(町への批判)に向かった」

 外国人が増えたのは、1990年に入管法が改正され、日系外国人の就労が実質的に認められたことがきっかけだ。人手不足に悩んでいた大泉町の中小企業は積極的に彼らを呼び入れ、町の姿は大きく変化。外国人の増加に伴うトラブルなどがメディアにたびたび取り上げられるようになった。

 しかし、時が過ぎるにつれ、そうしたあつれきは減っていったと村山町長は強調する。「犯罪件数は私が町長になった時より38%も減りました。ゴミ問題や騒音といったもめごとも、かなり少なくなっています」

 一方、外国人の労働力に支えられた企業からの税収は、町を豊かにしてきた。

 国から財政力が高いとみなされ、今年は全国で5%ほどの自治体しか対象とならない地方交付税の不交付団体にもなっている。

 町内では外国人と日本人が参加するイベントも開催され、多文化共生の「優等生」として、全国の自治体や団体からの視察も絶えない。「共生に失敗した自治体に視察に来ますか? 私たちは、外国人とうまくやってきたんですよ」

 それなのに――。

 「SNS(交流サイト)ではうち(町)が外国人を優遇しているというデマが広がっていた。そうしたうそを信じてしまう人(町民)がいたとすればショックです」

 ただ、これまでも前兆といえるものはあった。

 例えば、国籍条項についてだ。大泉町は25年度採用の町職員試験の受験資格から国籍条項を撤廃したが、町に寄せられた183件の意見のうち、174件が反対を表明するものだった。

 今年4月の町長選では、外国人について「今のままでは治安悪化が進むだけ」と訴えた男性が立候補。村山町長はダブルスコアで4選を果たしたものの、外国人に批判的な層が一定数いることが示された。

 「私自身、直接住民から外国人に金をかけすぎと言われたことがあります」と村山町長は明かす。外国人がいることで、町政運営に多くのコストがかかっているのは事実だ。

 町はポルトガル語の広報紙を作り、小中学校には通訳を置く。トラブルは減っているとはいえ、今後もなくなることはないだろう。

 「でも逆に言えば、外国人がいるから企業が成り立っているわけです。それによって業績が上がれば税金がうちに入ってくる。そうやって回っているんですよ」

 24年に同町で生まれた赤ちゃんのうち、28・9%は外国人だった。年齢別で最も多いのは日本人の50~54歳に対し、外国人は25~29歳。この若さが町の活気につながり、豊富な労働力の源泉になっている。

 86年と人口を比較すれば、同町の人口は11・9%も増えており、同規模の自治体ではずぬけている。しかし、外国人を除いた日本人だけでは11・4%減である。

 現在、町内の介護施設で働く外国人は47人で今も増え続ける。「外国人がいなければ、誰が寝たきりの日本人の面倒をみるのですか」。村山町長はそう問いかける。「外国人の多い大泉町はいつも注目されます。でも、私たちは『大泉町の姿は将来の日本の姿だ』という思いでやってきました。これからも共生に向けて頑張るしかないと考えています」【川上晃弘】

毎日新聞

社会

社会一覧>