工藤会トップ「賠償逃れ」疑い 被害者側、土地信託取り消し求め提訴

2025/11/08 20:42 

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 市民襲撃事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップで総裁の野村悟被告(78)=1審で死刑、2審で無期懲役、上告中=が複数の土地を親族に信託し「賠償逃れ」の疑いを指摘された問題で、事件の被害者側が被告の親族に信託取り消しを求めて福岡地裁に提訴した。

 10月20日付。関係者への取材で判明した。

 この問題で提訴は初めてで、被害者側は「賠償逃れ目的の詐害信託であり、所有権を野村被告に戻すべきだ」などと訴える模様だ。

 信託法は、信託された財産は「差し押さえなどができない」と規定する一方、債権者を害することを知りながら信託した場合は詐害信託として取り消し請求ができると定めている。

 市民襲撃事件の被害者らは野村被告らに損害賠償を求めて提訴し、一部の訴訟で賠償命令が確定。しかし野村被告が2020年、北九州市内の土地少なくとも23筆(計7068平方メートル)と自宅を親族2人に信託したため、所有財産の仮差し押さえができなくなっていた。

 信託の時期は、一部の訴訟で野村被告側の敗訴が濃厚となった頃だった。こうした状況などから被害者側は野村被告が賠償逃れのために詐害信託をしたと判断。提訴に向けて6月ごろから本格的に準備を進めていた。

 今回の訴訟では、賠償命令が確定したのに野村被告側が一定期間を経ても支払いに応じていない分があることを踏まえ、信託の一部取り消しを求める。取り消しが認められ、所有権が野村被告に戻れば、強制競売にかけるなどして賠償金を回収できる可能性が出てくるという。

 被害者側は提訴に先立ち、信託財産の保全も進めてきた。現在、所有権を持つ親族が財産を売却する恐れもあったため、信託財産について処分禁止の仮処分を申請。福岡地裁小倉支部は5月22日付で認める命令を出し、北九州市内にある土地少なくとも9筆(計約947平方メートル)の処分を禁じていた。

 一方、野村被告の信託登記に関与した弁護士は毎日新聞の取材に「親族に財産を託す正当な目的があり、差し押さえを逃れるためといった動機は認められない」などと説明。野村被告側は訴訟でも信託の正当性を主張するとみられる。

毎日新聞

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