「ふ化補助」妊娠成績改善せず 流産リスク増の可能性も 東大チーム

2025/12/10 19:00 

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 不妊治療の一環として、受精卵(胚)を子宮に戻す胚移植の約半数で行われている生殖補助医療「ふ化補助」について、一律の実施は妊娠成績を改善せず、流産などのリスクを上げる可能性があるとの研究を東京大などのチームが発表した。10日付の英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

 着床には、胚が透明な膜を破って外に出る「ふ化」が必要だが、患者の加齢や凍結していた胚を溶かす過程で膜が硬くなると考えられてきた。このため、レーザーで膜の一部を薄くするなどのふ化補助が長年実施され、2022年から保険診療の対象となった。ただ、妊娠成績が向上するかは十分な科学的根拠がなかった。

 研究チームは、日本産科婦人科学会が管理するデータに基づき、10~19年に国内で実施された約160万回分の胚移植を解析した。ふ化補助は全体の55%で実施され、特に高年齢で凍結融解胚を用い、胎児に発育する前の段階の「胚盤胞」を移植するケースで選択的に行われていた。

 患者全体では、胚移植あたりの妊娠率と出生率は、いずれもふ化補助をした集団でわずかに低下した。流産や多胎妊娠などのリスクはわずかに増えていた。

 年齢や胚の状態別の解析では「35歳未満、凍結融解胚、胚盤胞」の集団でのみ妊娠成績がわずかに向上していた。だが、初期胚を用いた移植や40歳以上の女性など、多くのグループでは成績が低下していた。

 解析データには、患者が着床不全を繰り返すかや、胚の質に関する情報は含まれていない。東大の原田美由紀教授(生殖医学)は「ふ化補助の一律の実施は推奨されないことを示す結果だが、特定の条件では効果を示す可能性もある」として、患者により効果に差が出る仕組みの解明も必要だと指摘した。【寺町六花】

毎日新聞

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