安倍元首相銃撃で山上被告に無期懲役判決 弁護側は控訴検討
安倍晋三元首相(当時67歳)が奈良市で2022年7月、参院選の応援演説中に銃撃され死亡した事件の裁判員裁判で、奈良地裁は21日、山上徹也被告(45)に求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。田中伸一裁判長は「他者の生命を軽視する態度が顕著で、自身の都合を優先させて被害者の襲撃を決意した。殺人の意思決定の過程に、被告の生い立ちの不遇性が大きく影響したとみることはできない」と述べた。弁護側は控訴を検討する。
被告は殺人罪のほか、銃刀法違反(発射、加重所持)▽武器等製造法違反▽火薬類取締法違反▽建造物損壊罪――に問われた。弁護側は一部無罪を主張し、20年以下の懲役が相当と訴えていた。
判決によると、被告の一家では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者である母親が教団に多額の献金をして家庭環境が不安定になり、15年に母親の信仰に反対していた被告の兄が自殺。被告は教団に打撃を与えようと考えるようになった。被告は安倍氏には教団への影響力があると考えており、教団幹部を襲撃する機会を得られない中、安倍氏の襲撃を決意した。
その上で、判決は量刑について検討した。被告は多数の聴衆が集まる演説会場で自ら製造した銃を発砲しており、「極めて危険で悪質性の高い犯行態様。公共の静穏や安全が大きく侵害されており、結果は極めて重大だ」と指摘。事件の計画や準備に約1年半かけたことも挙げ、「計画性は極めて高い」と強調した。
被告の不遇な生い立ちが犯行の背景や遠因になったことは否定できないものの、反社会性の大きい殺人を実行した意思決定の過程に、生い立ちが大きく影響したとみることはできず、無期懲役が相当だと結論付けた。
弁護側が無罪を主張していた発射罪については「法令の要件を満たしている」として罪の成立を認めた。
公判は25年10月28日に始まり、被告は安倍氏を殺害したことを認めた。被告の母親や妹、宗教社会学者ら計12人が証人出廷し、被害者遺族である安倍氏の妻昭恵さんの書面も読み上げられ、公判は判決も合わせて計16回開かれた。
判決によると、被告は22年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、手製銃を2度にわたって発砲し、参院選の応援演説中だった安倍氏を失血死させた。【田辺泰裕、木谷郁佳、林みづき】
◇判決の要旨
<銃刀法違反の成立>
被告が製造した手製銃はいずれも殺傷能力があることは明らか。拳銃や砲に該当する。
<安倍晋三氏殺害について>
犯行態様は卑劣で極めて悪質というべきだ。安倍氏の妻は死に接し、大きな喪失感を抱えている。公共の静穏や安全を脅かすもので発射行為の危険性が広範囲に及んでいると認められ、被害者以外に弾丸が当たる可能性は十分に想定された。
被告は高い殺傷能力を有する複数の手製銃を作り出した。計画や準備は約1年半の長期間にわたり、計画性は極めて高い。
<動機や経緯>
被告の母親は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信。父の生命保険金や祖父の遺産だった不動産を売却して献金を行った。被告らは献金のための売却とは知らされていなかった。兄は教団を信仰する母に怒りを持ち、暴力を振るうこともあった。兄は自殺し、被告は強い衝撃を受けて自身の責任を感じた。
被告は教団が名称変更し、違法行為をしていた過去と切り離され、今後は社会に承認されていくと感じ、受け入れがたい思いを抱いた。献金のおかげで兄が天国で幸せになっていると母が考えていることを知り、教団に怒りの感情を抱くようになった。
教団幹部の襲撃を考えたが、実行できなかった。仕事を辞め、手製銃の製造費用による多額の借金を抱えるなど、経済的にも追い詰められていた。
安倍氏が教団関連団体の行事にメッセージを送った動画を見て、教団が社会的に問題ないと認知されては困るとの感情を抱いた。岡山に行ったものの安倍氏を襲撃できず、安倍氏が奈良に来ることを知り襲撃を決めた。
<生い立ちの影響>
被告の生い立ちは不遇な側面が大きい。兄の自殺に衝撃を受け、教団への複雑な感情が怒りに転じたことも相応の理由があり、理解が不可能とは言えない。
この時点で弁護士らが宗教2世の問題を取り上げておらず、関係省庁でも親の信仰に関連した虐待は認識されていなかった。青年期までの各種体験が犯行の背景や遠因となったことは否定できない。しかし、教団への怒りを抱いたとしても殺人を決意し、銃を製造することは大きな飛躍があると言わざるを得ない。
教団幹部の襲撃は実行に至らないなど目的達成の障害となる出来事があり、殺人を思いとどまらせるのに十分なものだったにもかかわらず、事件に至った。
安倍氏の襲撃は「本筋ではない」と理解しながらも、経済状況が切迫し、襲撃の実行をこれ以上待てないという自身の都合を優先させた。被害者に落ち度は見当たらない。短絡的で自己中心的な意思決定過程について、生い立ちの不遇性が影響したとみることはできない。
<結論>
犯行態様の悪質性、危険性の高さは他の事件と比べても著しい。意思決定過程に強い非難が妥当し、無期懲役が相当だ。
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