「いざという時に」避難所生活が難しい自閉症 親子で車中泊に挑戦
大規模災害時における避難所の生活に、強く困難を感じる人たちがいる。介護が必要な高齢者や障害者とその家族。避難を諦めるケースもある。自閉スペクトラム症(ASD)を抱える人やその家族の選択肢として、車中泊避難の実証実験が17日、北九州市小倉南区であった。車内で一夜を明かした5家族10人は「(この方法だったら)避難ができるかも」と声を上げた。
ASDのある人は、感覚過敏などから強いストレスを受けやすく、多くの人が集まる避難所で長時間の生活が困難とされる。赤ちゃんや犬の声などでパニックを起こしたり、動き回って突然大きな声を出したりすることもあり、保護者が配慮に追われることも。このため、避難が必要でも避難所を避けて損壊した自宅や自宅の軒下などで過ごす人もいる。
実証実験は市自閉症協会や小倉南区、一般社団法人「九州防災パートナーズ」などが、2025年9月から計画。初回の事前勉強会でASDの子どもを持つ保護者に車中泊の方法や健康上の対策などの説明がされたが、保護者からは「絶対にできないと思う」。自閉症の人たちは初めてのことが苦手。避難の意味を伝えつつ、車中泊を「楽しい」と感じてもらい、抵抗感を和らげることが課題だった。
まず、保護者だけで下見をしたり、本人も参加して昼食を食べたりする短時間の日帰り車中泊体験を2回実施した。予定が分からないことに不安を感じる人もいるため、事前にイラスト付きの予定表を配布し、自宅で「何時に何をするか」をシミュレーションした。紙芝居で地震や津波、火災などを説明し、なぜ避難が必要なのかを伝えた。
25年12月末と1月に、一夜を過ごす車中泊に挑戦した。体操をしたり、レジャーシートや椅子を広げて皆で夕食を取ったりするなど、イベント性を持たせた。お菓子を持ち寄り、各自が好きなおもちゃも持参。保護者たちは途中で帰ることも覚悟していたというが、参加者全員が朝まで過ごすことができた。
小倉南区の自営業、松尾真紀さん(55)は、息子の樹さん(20)と挑戦。無理に頑張らせるべきか悩んだというが「楽しい思い出を作ってくれて、笑顔で過ごしていたのを見て、いざという時に避難できるかもしれないと自信がついた」と話した。
ASDの子どもを持つ保護者にとって、気の知れた人たちとまとまって車中泊避難ができることは、心理的な負担を和らげる。「行政が避難者の人数や支援のニーズを把握しにくい」といった車中泊の課題に対しても、自閉症協会など団体ごとに場所が定まることで、支援が届きやすくなる利点もある。一方で、長期化した場合にASDのある人が安心して過ごし続けられるかは見通せていないことが課題だ。
市自閉症協会の伊野憲治会長(66)は、「避難できる場所があるということが、本人や家族は気が楽になる。訓練を続けていきたい」と話し車中泊ができる避難所の設置を行政に求めた。参加者らで話し合うなど、改善を進めていくという。【井土映美】
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