<キャンパる>「売り手市場」下でやまないオワハラ 就活生の苦悩は今も続く
就職活動中の学生に企業が他社の内定を辞退するよう強要したり、内定承諾書の提出を迫ったりする行為はオワハラ(就活終われハラスメント)として知られる。学生の将来選択をゆがめる行為だとして政府や経済界が撲滅を呼びかけているが、依然としてこのオワハラに苦しむ就活生は後を絶たない。なぜ企業はオワハラに走るのか、就活生はどう身を守ればいいのか取材した。【上智大・清水春喜(キャンパる編集部)】
◇何度も受けた念押し
大手IT企業からオワハラを受けたという東京都内の女子学生の話を聞くことができた。今春卒業予定のこの学生は、選考が進む中で、人事担当者から「内定が出たら、うちに来るよね。他社は辞退するよね」と複数回にわたって念を押されたという。
学生は、こうした社員の言動などから「内定が出たら当然、内定承諾はすぐするものだという雰囲気を作られたと感じた」と話す。実際、内定後1日も置かずに内定承諾書にサインすることとなったという。人事担当者の発言について、この学生は「オワハラにあたる言動だったと思う」と振り返る。学生は結局、この企業の内定を辞退し、他社への就職を決めた。
◇笛吹けども踊らず
オワハラについては2023年4月、政府が「就職したいという学生の弱みに付け込んだ行為」と初めて位置づけた上で、当時の小倉将信共生社会担当相が経団連と日本商工会議所に対し、学生の職業選択の自由を妨害する行為だとして防止の徹底を求めたいきさつがある。
しかしオワハラはなくなっていない。大学4年生、大学院2年生計約5000人を対象に内閣府が就活状況などについて調査し、24年12月に発表した資料によると、24年度に「オワハラの経験がある」と答えた人は、企業から内々定を1社以上から受けた学生のうち9・4%に上る。22年度は10・9%、23年度は9・4%で、ほぼ横ばいの傾向がみられる。
◇意思をゆがめられる学生
職場におけるあらゆるハラスメントの防止と解決を目指す日本ハラスメント協会で代表理事を務める村嵜(むらさき)要さんは、内定や内々定と引き換えに他社の就活をやめるよう強要したり、妨害したりするオワハラは、憲法で保障されている職業選択の自由を侵害する行為だと指摘する。言動の程度によっては「刑法上の脅迫・強要に該当する可能性もある」と話す。
同協会は独自の「就活ハラスメント無料相談ホットライン」を開設し、全国の学生からオワハラやセクハラなど就活にまつわるハラスメントに関して相談事を受けつけてきた。必要に応じて、学生に代わって企業に抗議や事実確認の連絡もしてきたという。村嵜さんはオワハラは法的な見地からの問題点以前に「学生の意思決定をゆがめる点で問題だ」と語る。
内定後、内定承諾書など契約的な形を取ると、学生は「辞退してよいのか」と不安になりやすい。実際には内定承諾書は雇用契約書とは異なり、法的な拘束力は弱く提出後の内定辞退が直ちに法的な問題に発展することはないという。「ただ学生は、そう分かっていても『迷惑をかけたくない』という感情にのまれて進路を妥協させられてしまう。そのことこそ、看過してはいけない」と村嵜さんは話す。
◇「断りにくさ」につけこむ例も
では、なぜオワハラはなくならないのか。村嵜さんは「数年かけて採用計画を練り、広告費や面接に投入する人員などのコストが多くかかる大企業ほど、計画通りに内定承諾を積み上げたい思いが強い」と説明する。
内定辞退が出れば追加募集の費用も膨らみ、採用担当者個人に精神的負担が集中しやすい。その圧力が、学生へ転嫁される構図があると村嵜さんはみている。「採用計画が柔軟性を欠くと、担当者の焦りを生む」とも語る。
オワハラに対して向けられる国や大学、学生の目が厳しくなる中で、企業も強圧的に学生を追い込むことは難しくなったかもしれない。一方で、新卒採用の売り手市場が長く続き、多くの業界で人材獲得競争が激化している中、学生を囲い込みたい企業の対応も巧妙さを増してきている。
オワハラは、脅し文句のような強い言葉で学生に圧力をかける事例ばかりではない。冒頭に紹介した女子学生のケースでも、人事担当者の物言いはきついものではなかった。ただこの企業は直接的な自社への勧誘だけでなく、選考途中に自己PRの方法や面接の指導など学生の就活を支援する取り組みにも熱心だった。
この学生もその支援を手厚く受けていたが、その分「辞退を切り出すことに、申し訳なさを感じていた」という。内定通知後、考える時間を置かずに内定承諾書を提出した背景には、そんな心理的なストレスもあった。
◇就活長期化が生む心理的圧力
企業側もこの「断りにくさ」を認識し始めている。早期選考を積極化するIT大手A社は、採用担当者が長期にわたって学生と接点を持ち、互いを理解し合う関係の構築を前提とする「通年型」の採用選考を志向している。人事担当者は取材に対して「採用の早期化に伴って、選考から内定承諾、そして実際に入社するまでの期間が長期化している。その分、我々と関わる時間も長くなるため、辞退することを申し訳なく感じさせてしまう難しさはある」と認める。
その上で、学生を心理的に追い込まないよう「できるだけ対等な立場で向き合う姿勢を大切にしている」と語る。辞退が出ても、学生の意思決定を尊重し、応援したいという。実際に、このA社の内定を辞退したという学生に取材すると、辞退連絡後の同社からのしつこい引き留めや就活妨害行為は無かったという。
A社が早期選考を強めた背景には、企業の採用活動全体の早期化に加え、学生の生活・志向の多様化があるという。留学や部活動の都合で動き出しが遅い学生がいる一方、早くから自分の適性や強みを知りたい学生もいる。担当者は「機会損失をつくらないため、窓口を常に開けておきたい」と話す。
選考は面接回数を多く設け、インターン(就業体験)や座談会を挟んで会社のリアルを伝えることに力を入れる。内定後も入社までの時間が空くため、任意で内定者が業務に近い形で関われる内定者インターンと呼ばれる機会や研修を用意し、コミュニケーションを取り続ける。
しかし、現実には対等な関係性が常に保たれるとは限らない。学生の側から見ると、入社前の企業と長期的に接点を持つことは、入社後の「こんなはずではなかった」といったミスマッチを減らす利点がある半面、一定の人間関係を作った後で断る難しさを生むこともありうる。
◇人事担当者で“当たり外れ”も
同じ企業でも人事担当者によって、対応に差が出ることも問題だ。率直に話ができる関係を築けたとしても、例えば担当者が会話で「納得いくまで他社も見て、その上でうちを選んでくれたらうれしい」と言うのと、「うちに来るよね。よそには行かないよね」と言うのでは、学生が受ける印象は大きく異なるだろう。
同協会の村嵜さんは「企業は採用活動において学生と接触する際に、一律の対応基準を設け、採用担当者ごとの“当たり外れ”をなくすことが重要だ」と語る。具体的には研修やガイドライン整備を含め、企業全体で対等なコミュニケーションを担保する必要があるという。採用目標の持ち方も、辞退をゼロにするといった発想ではなく、一定の変動を織り込んだ計画に改めるべきだという。
◇守りたい自らの意思
学生側はどのように就活に臨むべきか。村嵜さんは「内定承諾書の提出期限は一律なのか」や、他社辞退を求められた場合は「辞退を求める意図は何か」を確認するなど、まずはコミュニケーションを試みることを勧める。
承諾書で納得できない文言や期限が示された場合は、政府からの通達などを踏まえた上できっぱりと異議を伝える選択肢もある。迷った時は、大学のキャリアセンターや外部相談窓口に早めに相談し、孤立しないことも重要だ。
就活は、企業が学生を選ぶ場であると同時に、学生が企業を見極める場でもある。企業は「辞退は起こり得る」という前提で採用を設計し、学生は「断ってよい」という前提で自分の意思を守る。両者がその前提を共有できた時、就活はようやく健全な意思決定の場に近づくと感じた。
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