受刑者と保護犬、慈しみの心育む 更生プログラム全国に拡大へ
法務省は2026年度、飼い主がいない犬を受刑者が育てることで、更生につなげる「保護犬育成プログラム」を強化する。中国地方の刑務所で始まった取り組みで、全国に順次拡大させていく方針。保護犬にとっては譲渡先が決まるまでの訓練となる。キーワードは他者と信頼関係を育む大切さだ。
◇最初は互いに距離
「犬の殺処分を減らす活動をしたいと話す受刑者も出てきました」。保護犬プログラムに先行して取り組む尾道刑務支所(広島県尾道市)の津村省吾副看守長は、犬とのふれあいを通じた受刑者の変化を感じている。
尾道刑務支所がプログラムを始めたのは24年11月。殺処分対象の犬を動物愛護センターなどから引き取り、飼い主を見つける活動に取り組むNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県)と連携し、保護犬を刑務所で一時的に預かり、受刑者に犬を世話する方法を教えている。
保護犬はもともと野犬や捨てられた犬が多く、人を警戒するケースも多い。当初は月1回ペースで刑務所の講堂を使い、犬に「待て」といった指示を出したり、散歩したりする訓練だった。
25年5月からは犬が受刑者の居室で寝泊まりする1泊2日の宿泊訓練を開始。現在は1カ月以上、寝泊まりする犬もおり、25年10月には1匹が初めて新たな飼い主に譲渡されたという。
プログラムの狙いは、他者を慈しむ心を育むことだ。最初は犬が人を恐れ、受刑者も犬をどう触っていいのか分からず、双方に距離がある状態から始まる。徐々に抱きしめたり、毛をブラッシングしたりとパートナーのように接することで距離が縮まっていく。
尾道刑務支所は犯罪傾向の進んでいない男性受刑者を収容している。津村副看守長は「社会的に弱い立場にいる保護犬と接して優しさが芽生えれば、再犯防止にもつながる」と話す。
◇背景に「拘禁刑」の導入
保護犬にとっても良い効果が期待されている。ピースウィンズ・ジャパンは年間約500匹の犬を新たに保護し、法人の施設には現在約2100匹いる。新たな飼い主に譲渡されるのは年間500匹程度。ここに至るまでには犬の警戒を解き、人に慣れさせることが必要で、プログラムはその一環となる。
保護犬育成プログラムの立ち上げに関わった國田博史・国内事業部長は「保護犬の認知度が上がって譲渡を促進する効果を期待している」と話す。ピースウィンズ・ジャパンとの連携は他に松江刑務所(松江市)でも始まっている。
受刑者の更生につながると判断した法務省矯正局は26年度の予算案に実施費用として約260万円を計上し、全国10カ所以上の刑務所に拡大する方針だ。
背景には25年6月に懲役と禁錮を一本化する新たな刑罰「拘禁刑」が始まったことがある。従来の懲役刑にあった刑務作業が義務ではなくなり、その分受刑者の立ち直り、更生につながるプログラムの充実が求められている。
法務省は「拘禁刑の下では受刑者の更生への意欲をどう醸成するかが重要になる。保護犬育成プログラムを拡大することで、拘禁刑が求める改善更生、再犯防止を実現したい」としている。【巽賢司】
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